【4】



ぼやっとした感覚で瞼を開く。

天井を眺め、何時だろうと枕元にある携帯電話を開く。

11:54

「もう昼かぁ・・・」

こんなに朝寝坊をしたのは久しぶりだなと思いながら、ラビはベッドから出た。

神田と会う事になってはいるが、時間を約束している訳でもないので、

ひとまずゆっくり1日を過ごそうと思った。

顔を洗ってから居間にあるテレビにスイッチを入れる。

バラエティ番組の再放送が流れ、シンっと静まりかえっていた部屋が明るくなったように感じる。

(メシでも食うかな・・・)

神田はおそらく弁当を持参しているだろうから、少し腹に入れておいた方がいいかと、

冷蔵庫の中を覗いてみる。

炊飯器には少し白飯が残っていたので、覗いた冷蔵庫から卵を取り出しフライパンで目玉焼きを作る。

海苔を添え、テレビを見ながらそれらを腹に納めた。

汚れた食器を洗い、掃除をしようかと窓を開け掃除機をかけ始めた。

テレビから流れるメロディーを一緒に口ずさみながら、リズムよく掃除機を動かす。

ふと、テーブルに置いてある携帯電話が光っているように見えたので、

いったん掃除機を止め携帯電話を手に取る。

(あ、ユウだ・・・)

急いで受信ボタンを押す。

「もしもし…ユウ?」

「さっさと出ろよ」

「ご、ごめんさ。掃除機かけてたんだ」

携帯電話が掃除機の音で分からなかったところだったので、気がついてよかったと胸を撫で下ろす。

「めずらしいな」

「そんな事ないさっ!ちゃんと掃除くらいしてるよ」

「あはは・・・こっちは終わったぜ」

「今、どこ?」

「電車、待ってる」

「じゃ、オレ駅まで行くさ」

「掃除はどうすんだよ」

「またやるからいいよ。すぐ出るから」

「あぁ。気をつけろよ」

通話を切ってからラビは掃除機を片付け、着替えてから慌ただしく部屋を出た。

 

駅に着いたら神田はすでに到着していてポスト横の壁にもたれ、足元に防具を置き腕を組んで待っていた。

「ユウ!ごめんさーっ!」

「いいよ。あれからすぐに電車が来たから、お前 間に合わねぇって思った」

はぁはぁと息を上げ荒く呼吸をするラビを見て神田は苦笑する。

「あんまり無理すんなって」

「無理なんてしてないさ!あ、あのさ・・・オレ一端帰って出直してきていい?」

「別にいいけど」

「テレビつけっぱで来ちゃったさ」

神田はラビの瞳を覗き込みクスクスを笑い出した。

「な、なにがおかしいさ?」

急に笑い出した神田を見てラビはきょとんとする。

「だって・・・お前、本当に慌てて出てきたってまる分かりだぜ」

「え?」

Tシャツ、前後・・・逆っ!」

「はっ!」

ラビは改めて自分の着ているシャツを見る。

その姿を見て神田の笑声は大きくなった。

「うわぁ~ホントさ!かっこわりぃ~」

まだ、自宅から駅までの距離でしかも自転車だったので、そんなに人目に触れていなかった事に

胸を撫で下ろす気分だった。

これが電車にでも乗っていたら、恥ずかしさ倍増である。

ラビは大雑把にTシャツを脱いだ。

現れたラビの上半身に神田はハッと息をのんだ。

(コイツ、こんないいガタイしてたっけ?)

幼い頃から一緒にいるので、あたりまえのようで気が付かない事は結構あるが、

ラビの体型がこんなに変わっているとは思わなかった。

適当に付いてる筋肉、そこそこ厚い胸板。

「ユウ?どうしたさ?」

あんなに大笑いしていた神田が急におとなしくなってラビは首をかしげる。

「い・・・いや・・・なんでもねぇ」

(俺・・・コイツの裸見て、何ドキドキしてんだよっ!)

神田はどもりながら返事をすると俯いてしまった。

「オレの裸見て、ドキドキしたさ?」

ラビの言葉が図星だったので、神田は驚き顔を上げ一端ラビを見つめた後視線を泳がせた。

その頬がほんのり赤く染まり恥ずかしそうにしている神田を見て、ラビは図星だったと解釈する。

「あははっ!当たりみたいさ」

「バっ!お・・・お前の裸なんか興味ねぇーよっ!」

なんでもないように振舞おうとする神田だが、身体は正直で頬はどんどん赤く染まっていった。

「ユウはわかりやすいさね」

ニッっと口尻をいたずらっぽく上げたラビは、神田の腕を力いっぱいに引っ張り自分に引き寄せた。

急に腕をもっていかれた神田はよろけるようにラビの胸に飛び込む。

ラビのもう片方の腕が神田の背中へ回り、自分の身体に押しつけた。

完全に抱きしめられた形になった。

ラビの素肌に頬が触れ、ラビの匂いが一瞬脳を刺激した。

「なっ!何すんだよっ!」

慌てた神田は声いを高くしラビの腕をすり抜けようとしたが、その腕に一層力がこもり動けなくなっていた。

「ちょっ!離せ、離せよっ!」

「小さい頃さ・・・」

ラビは神田の肩口に顎を乗せ落ち着いた口調でつぶやいた。

「・・・・?」

ラビから離れようと全身に力を入れていた神田は、視線を耳にかかる赤髪へと移し身体の力を緩めた。

「真冬に公園で近所の子達と遊んでて、ユウが大事にしていたボールがなくなっちゃったんさ。

 オレとユウで必死に探して・・・」

「・・・・・」

「結局、公園の外れにある浅い池の中に落ちてて、オレは池に飛び込んでボールを拾ってユウに渡したさ。

 寒くて寒くて、震えるオレをユウが抱きしめてくれたんさ」

「そんな事あったか?覚えてねぇよ」

「ユウね、泣きながらオレをぎゅうっってしてくれた。すごく温かかったさ」

「それと今のコレと、どう関係があるんだよ。今、寒くねぇぞ」

「なんか急に思い出したんさ。それでユウをぎゅってしたくなった」

ラビは神田の身体を離し、腕に絡ませておいたシャツを前後確認し、身体に纏った。

抱擁から解放された神田はそのままの状態でラビを見つめていた。

神田もラビとの幼い頃の事を急に思い出す事はもちろんある。

その度にふたりの歴史にくすぐったい気持ちになり、懐かしく思う。

「ユウ・・・怒った?」

「いや・・・」

「ごめん・・・オレの勝手な思い出話しさ。忘れて・・・」

ラビはそう言うと神田の防具を自転車の前籠に乗せ、スタンドを上げ自転車の向きを変えると

神田に荷台に乗るよう促した。

荷台にまたがり自分の腰に神田が手を回した事を確認すると、ラビはゆっくりとペダルをこぎ出した。

自転車は防具の重さで前方に重心がかかり、よろよろとよろけるのでラビは両腕に力を込めバランスを保つ。

「おい。大丈夫か?降りようか?」

「だっ!大丈夫さっ!」

(いきなりあんな事しておいて、忘れてだなんて・・・)

ラビに抱擁された事で、神田はまだ心臓が破裂するくらいドキドキしていた。

それをラビに悟られたくなくて、いつものように振舞うが口数が少なくなってしまう。

「小さい頃はよかったな・・・」

眼の前にある、いつの間にか広くなった背中を見つめ、神田はポツリと呟いた。

「え?何か言ったさ?」

「いや、何も言ってねぇ」

 

眼の前にある見慣れた背中を神田は見つめた。

そして、ゆっくりと額をそこへ押し当て瞼をとじた。

ドキドキしている胸の高鳴りは治まらないけど、とってもゆるやかな気持ちに口元が緩んだ。

背中に重みを感じたラビは、神田が部活動で疲れて居眠りを始めたと思って、

ペダルをこぐ速さを少し落した。

 

 

「着いたさ」

「あぁ」

神田は額をラビの背中から離し、振り向いてこちらを見ているラビに視線を合わせた。

「ウトウトしちゃった?」

「ま、まぁな・・・」

神田は荷台から降り、荷物をラビから受け取る。

「テレビ消したらすぐ行くから」

「おぅ。他にも戸締り確認してこいよ」

「うん。じゃ、後でね」

 

 

部屋に戻ると思った通りテレビがひとりで話しているように動いていた。

気が付いて戻ってきてよかったとテレビのスイッチを切る。

他にも居間の窓は開けっぱなしである。

「あちゃ~窓まであけっぱさ・・・」

窓際に立ちガラス戸を閉めレースカーテンを引く。

カーテンを握る自分の手を広げじっとみる。

唐突に神田を抱きしめた時の感覚が蘇ってくる。

(オレ・・・何か最近おかしいさ・・・)

広げた手のひらをぎゅっっと握りしめ拳を作る。

--彼女と居ると楽しいが、それはいろいろおしゃべりしたり買い物したりするだけ。

  触れたいとか抱きしめたいとか、そういう感情は湧かない。

  彼女の事は抱きしめたいを思った事がないのに、神田の事は抱きしめたいと

  さっきは咄嗟に思ってしまった。

  どうして・・・?

  彼女とはまだ付き合ったばかりだから、そう言った感情がわかないのか?

  でも神田は自分と同じ男だ--

 

「わっかんないさっ!」

その場にしゃがみ込み、クシャクシャと両手で髪をかき、頭を抱え込んでしまった。

 

 

何分くらいたっただろうか。

ズボンのポケットの中で携帯電話が鳴りだした。

ハッとし、携帯電話をポケットから取り出し二つ折りのそれを広げた。

(ユウ・・・あ、やっべ)

受信ボタンを押しそれを耳にあてる。

「もしもし・・」

「ラビ?」

「うん」

「どうした?具合でも悪くなったか?」

心配そうな神田の声に、すぐ行くと言っといて申し訳なく思った。

「だ、大丈夫さ」

「なかなか来ないから・・・」

「ごめん!すぐ出るから」

「来てみた」

「え?」

「玄関の前・・・」

「うっそ・・・」

「開けてくれるか?」

 

思いもよらない展開にラビは慌てて玄関に向かう。

扉をあけると、神田が携帯電話を耳にあてたまま立っていた。

まだ学生服のままだ。

「ユウ・・・!」

「ごめんな、急に・・・ちょっと心配になって・・・」

「ううん。オレの方こそすぐに行くって言っといて・・・」

申し訳なく思ってラビは俯き、ふたりの間に少しだけ沈黙の時間がながれる。

「あ、っと・・・とにかく上がって」

まだ心配そうな表情をしている神田を部屋に招き入れた。

先ほど閉めたガラス戸を少し開け、テーブルの上を片付けた。

「ちらかっててごめんさ」

「いつもの事だろ?それに急に来たのはこっちだし」

神田に余計な心配をさせてしまった事に胸が痛んだ。

それに神田に対して変な感情が湧いてきて、ラビは神田の顔をまともに見れなかった。

無言のまま冷蔵庫から麦茶を取り出しグラスに注ぐ。。

「大丈夫なのか?」

「何が?」

「何って、何かヘンだぞ。お前」

「そ、そんな事ないさ」

麦茶が入ったグラスを神田の前にそっと置く。

「そんな事あるんだよ!」

神田はグラスを置いたラビの手首を掴んだ。

「俺には分かる」

神田に掴まれた自分の手首をみつめ、ラビはしばらく動かないでいた。

浅くひと呼吸をして、自分の手首から神田の瞳へ視線を移す。

そしてすまなそうに眉は八の字になる。

「心配かけて、悪いさ・・・」

「そんな事ない。でも何かあるんだったら、ひとりで考えこむなよ」

「・・・・・」

「俺でよかったら相談にのるぜ」

神田の言葉が終ると同時にラビは思い余ったかのようにもう片方の手で神田の腕を引っ張り

勢いよく自分に引き寄せた。

先ほど、駅でされたようにラビに引き寄せられ、神田は反射的に「なっ!おいっ!」と

すっとんきょうな声を上げた。

ラビは先ほどのように神田の背中に腕を回し抱きしめる。

「ラビ?やっぱお前ヘンだぜ」

「うん。そうさね。ヘンだよね。でもちょっとこのままでいて・・・・」

「だって・・・あのさ」

「相談にのってくれるんでしょ。だったらこのままで・・・」

だんだんと弱々しくなってくるラビの声に「分かったよ」と返事をし神田はじっとしていた。

そのうち自分の肩口に顔をうずめてきたラビは尚も弱々しく囁く。

「これからもずっと側にいてくれるさ?」

「何バカな事ぬかしてるんだよ」

「ごめんさ・・・ホントに・・・自分でもよく分からないんさ」

弱々しさに加え震えるラビの声に涙をながしているんだろうと神田は察し、

今、無理にその涙の理由を聞く事ができず、

抱きしめられたまま持て余していた両腕をそっとラビの背中に回し、

涙が出る程つらい事があったのかと両腕に力を入れた。

 

「なぁ、ウチ行こう」

ラビの背中をゆっくりと擦りながら神田はラビの耳元で囁いた。

「・・・・・」

「ここでこうしてたってしょうがないし、気が晴れると思うんだが・・・」

「うん・・・」

「じゃ、決まりな」

ラビの肩を両手でポンポンと叩き俯く隻眼を覗き込んだ。

「な?」

ちょっと声を高くし叩いた肩を少し揺らした。

ラビはゆっくりと視線を上げ神田を見る。

口尻を上げ微笑む神田にぎこちない笑顔を返した。

 

ふたりは戸締りをして、ラビの家を後にする。

 

「俺さ、チャリで来たからたまには後ろに乗れよ」

ラビは神田に促され自転車の荷台に乗り、両腕を神田の腰に回した。

「しっかりつかまってろよ!」

神田はペダルをゆっくりとこぎ出した。

風に流れる神田の髪がラビの頬をくすぐる。

なんだかそれが嬉しくて胸がキュンとなり、顔を天に向け空を仰いだ。

 

 

ラビの笑顔が戻ったのは夜になってからだった。

今夜は泊っていけと神田の母親から言われたラビは、素直に甘える事にした。

夕飯の後風呂に入り、ようやくいつものラビに戻って神田は安心した。


大好きなラビの笑顔がなくなってしまうのは神田としては寂しくてたまらないのだ。

「ユウ、ごめんさ。今から勉強見ようか?」

「ムリすんなって。今日はもう休んだ方がいい」

「ん・・・でもさ・・・」

「お前は少し無理しすぎなんだよ」

「無理なんかしてないさ」

「だから、いっぱいいっぱいになっちまうんじゃねぇか?」

「そうじゃないんさ・・・」

相談に乗ってもらいたくても、自分でもよくわからないこの気持ちを言えるわけがない。

「何があったか理由は聞かないけど、俺はいつもお前の味方だからな」

神田はラビの隣に腰を下ろすと、しな垂れてる肩を抱きポンポンと叩きながら自分の方に少しだけ寄せた。

 

 

 

テスト期間は部活もなく神田はラビと下校を共にし図書館に通った。

ラビは毎度のごとく勉強を教えてくれる。

毎度思う事なのだが、どうしてコイツはこんなにも勉強ができるのか関心するのだった。

しかも教え方が解りやすい。

コイツの将来の職業は教師が向いているんではないかと勝手に思ったりする。

「なぁ」

神田はラビから出されている問題に頭を抱えながら、隣で参考書を読んでいるラビに声をかける。

「ん?できたさ?」

「お前ってさ、いつも思うんだが・・・」

「何?」

「特別勉強してるってわけでもねぇのに、何でそんなに出来るんだよ」

「急に何?」

「だってこの数式、どう見たって人間の思いつくもンじゃねぇぜ」

神田はシャープペンの先をノートに軽く打ちつける。

「だいたいさ、こんなモン解いたからって何になるんだよ。将来に役立つとは思えんがな・・・

 お前よくこんなの解るよな」

「ユ~ウ~くぅんっ」

ラビは読んでいた参考書を机の上に開いたまま神田の方へ身体を向け、じっと神田の瞳を見つめた。

「な、なんだよ」

いきなり真剣なまなざしで自分を見てくるラビに身構える。

「・・・少し休憩しよvv」

ラビはにぃ~と笑いジュースを買ってくると席を立った。

 

 

テストの日はすぐにやってきた。

午前中で下校となるテストの間はさすがにラビと帰る事ができないので、

夕方に図書館で待ち合わせた。

ラビもテストが近いので一緒になって勉強した。

神田の学校のテスト最終日とラビの学校のテスト初日が被っていたが、

被っている日、神田の方が1時間早く終わる事をラビには伝えないでいた。

 

テスト最終日、解放された生徒達はこれから気分を晴らしにいくようで、友人同士で浮かれていた。

神田もカラオケに行こうと誘われたが、上手く断り足早に駅に向かった。

着いた先はラビの通う学校の正門だ。

いつもラビの方から自分の帰りを待っていてくれる事が多いので、

自分が早く終わった日はラビの事を待ってみてもいいなと思ったのだ。

それにびっくりする顔も見たかった。

そんな悪戯心もあってか、ちょっぴりワクワクしてきた。

正門前のガードレールに寄りかかりラビが出てくるのを待つ事にした。

10分程でチャイムが鳴り、生徒達が次々に正門を後にし始める。

他校の制服を着た神田を横目で見ながら・・・

数分すると赤い髪が目に付いた。

本当に遠くからでもわかりやすいオレンジ色・・・

ラビの隣には頭ひとつ程低い小さな女の子がいる。

神田はあっと思った。

ラビに彼女がいた事を忘れていたのだ。

(あのコが彼女なのか?)

まずかったな・・・と思い、気づかれていないうちにココを離れようとガードレールから腰を離した瞬間

自分の名を叫ぶ声が聞こえた。

「ユウッッ!?」

バツの悪そうな顔で声の方を向くと、ラビが嬉しそうに大手を振っている。

しかもラビの声に回りの生徒の視線が一斉に神田に突き刺さる。

ラビは飼い主を待っていた仔犬のように、神田に駆け寄った。

「どうしたんさっっ!ユウが来てくれるなんてっ!」

案の定びっくりしたラビの顔は面白かった。

「試験がお前より1時間早く終わったんだ。

たまにはお前を待つのもいいかと思ってな」

「うわぁ!嬉しいさっ!」

驚きの顔から満面の笑みに変わった。

「・・・ってか、 お前・・・彼女・・・だろ?」

少し遅れてラビの後を追ってきた彼女は、ラビの後ろで小さくなっていた。

ラビはハッとして自分の後ろの彼女を見た。

「あ・・・ごめんさ・・・今日一緒に帰れないさ」

「うん、いいよ・・・お友達?違う学校だよね」

彼女は簡単にラビから神田を紹介されたが、男子学生にしては美しくラビに他校の友達がいた事に

驚いた。

それに自分の学校の友達より仲が好さそうだ。

ラビはペコペコと彼女に謝っていたが、彼女はあっさりと神田に挨拶し駅へ向かう生徒達に交じって行った。

「何か悪かったかな、俺・・・ココにきて」

「そんな事ないさ!オレ嬉しいもん!どっかで昼食っていこうよ」

「あぁそうだな」

神田が自分の事を待っていたという思いがけない事態に、いささか興奮ぎみで神田以外周りが

見えなかったが、落ち着いてきたらかなりの女子生徒の視線が神田に集中している事が分かって

何だか面白くない。

「駅前に新しく出来たファミレスがあるんさ。そこでいいかな?」

早いとここの場を立ち去ろうとラビは神田を促した。

「お前に任せるよ」

神田はラビに笑みを向けた。

 

新しく出来たというファミレスはそこそこ人が入っていた。

すぐ席に通されランチをふたつ注文した。

「ユウ、飲み物ン、アイスコーヒーでいい?」

「あぁ」

ドリンクバーに飲み物を取りに行くとラビは立ちあがった。

残された神田は店内を見回す。

平日の昼前なのでまだ人は少ないが、さすがにラビの学校の生徒が多かった。

「ハイ、ユウはミルクいらないんだよね」

「あぁ、ありがとな」

ラビは自分の髪と同じ色のジュースをストローをささず、グラスに直接口をつけ美味そうに飲み始めた。

「びっくりしたさ。まさかユウがいるなんて思ってなかったもん」

「でも、彼女に悪い事したな」

「大丈夫さ!それよりオレすっげー嬉しかったさ」

ラビはニコニコと神田を見ている。

この笑顔に神田も自然と口元が緩む。

「ユウ、テストどうだった?今日で終わりさね」

「お前のおかげで白紙は免れた」

「明日っからユウ部活?」

「あぁ、いつも通りだ」

「オレ・・・下校時間は午前中だけど、午後は図書館行くから、帰り駅待ってるよ」

「え?」

 

お待たせしましたとウエイトレスが食事を運んできた。

 

「無理すんなよ。そんなんだからこの前みたいになっちまうんだぜ」

「うん・・・でもオレ・・・」

「ん?」

「ユウと会っていたい」

ラビの言葉に神田は口の中に入れた鶏唐揚げを丸のみしそうになり、咳き込む。

「お、お前さ、それは彼女に言ってやる事だろ?」

「ユウはオレと会っていたくないの?」

「んなことねぇ。じゃなきゃこうしてお前んとこ来ねぇよ。今日もこの後お前に付き合うぜ」

「え?ホントさ?」

「・・・ってもよ、俺がお前に勉強みてやるわけにはいかねぇけどな」

「いいよ、側にいてくれるだけで。漫画でも読んでて」

早く食えといいながら、やっぱりラビに会いに来てよかったと美味そうに食事を口に運ぶラビを見て

神田は心の中で微笑んだ。

 

 

 >>【5】へ続く