【3】



 

ファーストフード店の中に入り、ふたりはドリンクを注文する。


丁度、奥の壁際の席が空いたので腰を下ろす。


神田は胸元で揺れるネックレスが気になるのか、座ったと同時にネックレスを触りまじまじと見ている。


「ラビ」


「ん?」


「コレ・・・ありがとな・・・」


「え・・・あぁ」


「初めてだろ? 何か照れるぜ」


「良く似合ってるんだから、もっと自信もっていいさ」


「そ、そうか?」


「うんっ」


ラビはニッコリ微笑えむ。


「大事にするよ」


「オレもユウとお揃いだから、メッチャ大事にするさ!」


ふたりは再び微笑み、ストローをドリンクに刺し、美味しそうに飲み始めた。


「うはぁぁっ!うっめー! 喉カラカラだったさぁ」


「ビールのCMみえてぇだぜ」


「えへへ・・・」


ラビの無邪気に笑う笑顔が神田は大好きだった。いやな事があったり、


気持ちがへこんでいる時、今までこの笑顔に何度助けれてきた事だろうか。


「ところでさ」


ストローを指でいじりながら声を低くしてラビは言葉を続けた。


「オレ、彼女作ろうかと思って・・・」


「は?」


「彼女・・・・」


「いいんじゃねぇか お前もてるからその気になればすぐできるだろ」


意外にも淡々と言う神田に何故かラビはおもしろくなかた。


「ん、まぁね 金曜日にも隣りのコに告られた」


「だろ? 今まで何回か告られてんの知ってたゼ。お前が興味なさそうなのが不思議だと思ってた」


「うん・・・興味なかったっていうか・・・その気がなかったんさ。 返事OKにしてみるさ」


「あぁ」


ラビに会えない時間が出来ると思い、部活動への入部を躊躇していたが、


女の子と付き合うときいて入部への決心がついた


自分が部活に行ってても、ラビが時間をもてあます事がなくなる。


神田は早速明日入部届けを出そうと決心した。


「さぁてと。携帯の設定をしないとね。」


「そうだな。頼むぜ」


「ユウももうちょっと機械に強いといいんだけどなぁ」


「しょうがないだろ。 お袋いないけど、ウチに来いよ」


「え?ユウのお袋さんが居ないなんて珍しいさ」


「だからメシは出ないぞ」


「いいよ。途中でなんか買いにいこ」


「じゃ、決まりだな」


ふたりは残りのドリンクを飲み干して神田の家に向かった。


 

 

「ほんとうに誰も居ないさ」


「そんな事嘘ついてどうするんだよ」


「えへへ 口説き文句かと思ったのになぁ~」


「馬鹿かっ! 先に上がってろよ。何か飲むもの持ってくから」


「うん」


言われた通りラビは2Fの神田の部屋へ向かった。


自分の部屋とは正反対できちんと整理整頓された神田の部屋。


机の上には中学の修学旅行の時、ふたりで撮った写真が木枠のフレームに入れられ飾られていた。


この写真はラビも自分の机に飾ってある。


ラビはフレームを手にとり、写真を見つめる。


大きな口をあけて笑う自分の隣りに照れくさそうにしている神田がいる。


(ユウ かわいいさ)ラビは自然と口元が緩み写真に向かった微笑んでいた。


 

「何、ニヤけてるんだよ」


神田が部屋に入ってきたことすら気づかなかった自分に慌てるラビ。


「い・・・いや・・・」


「あぁ その写真かぁ~ お前ンとこにもあるよな」


「フレームも色違いで買ったさ」


ラビはフレームを元にもどし、座卓の前に腰を下ろし 胡坐 ( あぐら ) をかき


神田が入れてくれたコーヒーをすすった。


「じゃ、ユウの携帯からやるさ」


「わりぃな」


「平気!平気!」


ラビは紙の手提げ袋から携帯電話本体と説明書を取り出し、設定をはじめた。


すると、神田はラビの隣りに座り携帯を覗き込んできた。


おおよその設定が出来上がりラビは顔を上げると、思いがけない距離に神田の顔がありドッキリした。


「あ・・・ユウ・・・近いさ」


「おぉっ わりぃ・・・」


「えっと・・・あの・・・その~ オレのメアドと番号入れちゃっていい?」


「もちろん!ってかお前しかいねぇよ」


「ふふふ・・・まだね。 そのうち増えるさ」


「別に増えなくていいよ。お前にだけ連絡つけば・・・」


ラビの設定している手が止まった。


「ユウ・・・それってさ、ユウの携帯はオレ連絡専用なの?」


「だから買ったんだろ?お前と連絡する為に」


「それって素直に嬉しいけど・・・・」


ラビは自分のメールアドレスと電話番号を登録後、動作確認をしてから神田に携帯電話を渡した。


「ハイ。終わったさ。今度はオレのやちゃうから待ってて」


「ありがとな」


神田は携帯電話を受け取ると、折りたたみ式の本体を開けたり閉めたりして


珍しいおもちゃを与えられた子供のように一生懸命ボタンを押しはじめた。


そんな神田の姿を見て、ラビは思わず吹き出してしまった。


「何がおかしいんだよ」


「おっかしいさぁ!ユウってば小さい子供みたいさ!」


「は?」


「珍しいおもちゃ買ってもらった子供みたいさ」


「う、うっせーよ!」


「かわいいさっ!かわいいさっ!」


「黙れよ!」


はしゃぎ出したラビの口を神田は手で覆った。


覆われた神田の手の中で、ラビは尚も何か言っているのでもごもごとしか聞こえない。


ラビは自分の口を覆っている神田の手首を掴み口から放した。


以外にも力強いラビに神田はひるんだ。


「苦しいさ!ユウ!」


「お前が無駄に騒ぐからだよ」


ラビは神田の手を放すと「メアド決めた?」と聞いてきた。


「あぁ ちょっと待て。メモするから」


そう言って立ち上がり、机からメモ用紙を持ってきて、考えたメールアドレスを書いてラビに渡した。


「こんなんでいいのか?」


「このさ、lyって何?」


「お前とオレの名前の頭文字取った」


「え?」


「何かいけないのか? 登録できない文字とか?」


「い・・・いや 大丈夫さ」


ラビは自分の名の一部が神田のメールアドレスに入っているかと思うと、嬉しくなった。


「じゃぁ、オレのトコに入れるさ」


ラビは自分の携帯に神田のアドレスを登録し、テストで送信してみる。


ピコピコと音が鳴ったが、神田はどうしたらいいのか分からない。


「着たぞ」


「そしたら、ここを押して・・・・」


メールの開き方を教えられ、送られてきたラビからのテストメールを開いてみて神田は赤面した。


“テスト、テスト。 ユウ 大好き!”


 

「何だよ。この文は」


「え?ホントの事さ。好きじゃなきゃ一緒にいないっしょ」


「だけどよ・・・」


「オレさ、ユウが一番好きさ。親より他の友達よりも」


「それは、ありがとな」


「へへへ・・・何かユウには自分の全てをわかってもらってる気がするんさ」


「わかんね~ぞ~!」


「えー!そう言わないでくれさぁぁ」


ラビの眉毛が八の字になる。


「ははは・・・俺もお前が一番好きだぜ。お前といるとなんだか安心するんだ」


神田はラビをみてニッコリと微笑んだ。


屈託のない神田の笑顔にどきどきしながらラビも微笑み返した。


 

その後、ふたりはTVゲームをしてから夕飯のおかずを買いに近所のスーパーに行った。


白飯はラビが研ぎ、炊飯器にセットした。


たまにはこんな夕飯も悪くないとお互いに思いながら、キッチンのダイニングテーブルで済ませた。


夕飯後、神田の部屋でゴロゴロとしながらTVを見ていたら、いつの間にか眠ってしまってるラビに


神田は薄い上掛けをかけてあげた。

 

 

翌日、神田は剣道部へ入部届を出し。


手続きの後、入部説明を受け見学もしてきたので、帰りが少し遅れてしまった部活動は明日から始まる。


正門から駅へ向かう途中、昨日買った携帯を鞄から取り出してみる


メールが一通、入っていた。 ラビからだ。


『ユウ、いつも通り帰り待ってる。遅くなってもいいからね。』


今日は入部手続きがあるから、遅くなるかもしれないので先に帰ってもいいと


ラビには伝えてあったはずなのに・・・


(まったく アイツは・・・)


『今、終わった。これから帰る』


神田はラビに返信し、足早に駅へ向かった。


 

電車から降りると、いつもの様に上がり方面のホームに赤い髪が揺れていた。


下を向き携帯をいじっているようだ。


近付く神田に気づき、ラビは携帯を閉じながら神田に笑顔を向けた。


「遅くなるって言ったろ。待ってなくてもよかったのに」


「いいんさ。メール見てくれた?」


「あぁ、返事おくっただろ?」


「全部見た?」


「は?全部って?」


神田は慌てて、ズボンのポケットから携帯を取り出してみる


あれから2通、ラビからメールが送信されていた。


「おまえな・・・」


「ユウから返事貰えてうれしかったさv」


「アホか・・・あたりまえだろ?その為に買ったんだぜ」


そういえば、テストで送信した以外に始めてメールのやり取りをしたのだ。


「ちゃんと返信できてよかったさ」


「試したのか?」


「へへへ・・・それもあり・・・かな?」


「コイツ!」


神田はラビの首に片腕をかけて、少し力を入れ首を絞める形をとった。


「うひゃぁ~!ユウー!降参!降参!」


ラビは足をバタバタさせるが、神田から香る石鹸の匂いが心地よかった。


神田は腕を離し、ベンチに腰を下ろした。


続いてラビも神田の隣りに腰かけた。


「でもさ、便利っしょ ケータイ」


「まぁな」


ラビは再び携帯を開け、画面を神田に向けた。


「ね、写真撮ろ」


「写真?」


「うん」


「写真も撮れるのか?コレ・・・」


「うんもぉ~ユウちゃんったら、何にもわからないんさね?」


神田は自分の携帯を見つめてる。


「昨日、メールの事ばっかでカメラ機能の事言うの忘れてたさ」


ラビは簡単にカメラ昨日のやり方を神田に教えた。


そして、自分の携帯を持って自分達の前にかざした。


「ホラ、ユウ 写すよ」


ラビはシャッターを切った。


画面を確認し、今度は神田の携帯で写そうと言い出した。


神田の携帯を手にし、ラビは再びシャッターを切った。


神田の半分驚いた表情がラビはとっても気に入った。


「ユウってさ・・・」


「ん?」


「あ・・・と、いや、なんでもないさ」


「なんだよ」


「言ったら怒るからやめたさ」


「言いかけて止めるなんて気分悪いだろ?」


「ぁぁ・・・そうさね・・・ゴメンさ」


「じゃ、言えよ」


「怒らないでって約束してさ」


ラビは携帯から、神田の瞳へと視線をゆっくり移し大きく息を吸った。


「あ・・・と、その・・・ユウって、本当に・・・かわいいさ・・・」


「なっ!」


「怒らないって約束さ」


「お、怒らねぇけど・・・何でそうなるんだよ」


「だってそう思ったんだもん」


ラビは鼻の頭をかく仕草をし、少しだけ口を尖らせた。


「変なヤツ。  それよりさ、告ってきたコに返事したのか?」


「え?あ・・・あぁ、OKしたさ」


神田がいきなり話題を変えたのでラビは返事に詰まった。


「そうか・・・で、いつ初デート?」


「とりあえず明日会う事になってる」


「よかったな」


神田は素直に喜んでくれているのに、ラビは何故だかしっくりとこなかった。


「俺も明日っから部活頑張るかな~!」


神田は両腕を大きく上げ伸びをした。


その後、しばらくふたりはホームのベンチで話してから、ラビは神田を自転車に乗せ家まで送り帰宅した。



6月に入って雨ばかりが続いていたが、久振りに太陽が顔を出した。

神田が部活に入部してから、ラビとのふたりの会話が急に減ってしまった。

覚悟はしていた事だったが、お互いにつまらない気分になっていた。

神田は練習を終え、遅くなってしまったと思いながら、いつも通りに電車に乗り帰路につく。

わずかな距離区間だが車内でウトウトと居眠りをしてしまったので、降車駅に着いた時は

慌てて車内を飛び出した。あやうく乗り過ごすところで、ホッと胸を撫で下ろす。

落ち着いたところで視線を上げると、赤い髪が飛び込んできた。

「え?」 

瞬きを何回か繰り返してからもう一度視線を戻してみても、その光景は同じだった。

ラビがいつものベンチに座って携帯電話をいじっている。

そしてそれを耳にあてた。

(電話・・・彼女にかな・・・)

邪魔をしては悪いと、神田はラビを見なかったことにして改札へ向おうと思った時、

自分の携帯がズボンのポケットで鳴り始めた

すかさずポケットから取り出し、パカッっと二つ折りのそれを開けデスプレイをみて

神田は仰天する

(ラビ・・・)

受信ボタンを押し、耳に当てる

「ユウ?お帰りv」

「ラビ・・・」

神田は顔を上げ数メートル先のラビを見る

ラビもこちらを見ているが、手を振る事も無く、ニッコリ微笑む事も無く

携帯電話を耳に当てたまま、真っ直ぐに視線を神田に向けていた。

「あ、あのさ、お前の事見えてるんだけど・・・」

「分ってて、電話してるさ」

「どういうことだ?」

「ユウ、お誕生日おめでとv」

「え?」

誕生日。すっかり忘れていた。

そういえば今朝、家を出る時にお袋が言ってた言葉を思い出した

『今晩はユウの大好きなもの作るからね。誕生日だから・・・』

 

「今日、ユウの誕生日さ」

「そ、そうだけど・・・お前ずっとこんな時間まで・・・」

「えへへ・・・」

「彼女はどうしたんだよ」

「ユウの誕生日にまでデートは入れないさ」

「お前な・・・もっと彼女を大切にしてやれよ」

「ユウはオレのいちばん大切な人だもん。彼女はまだ付き合い始めたばかりだし、そこまで大切かわからないさ」

「・・・・・・・・」

「ねぇ、ユウ こっちに来て」

「電話切るぞ」

「あー!ちょっちょっ待って!切らないで!」

ラビは慌てはじめ、声のトーンが上がった

「何でだよ。そっち行くから電話してても意味ねぇじゃん」

「いいから切らないで!」

神田は携帯電話を耳に当てたままラビの座っているベンチへ足を向けた。

耳に当ててる携帯電話からはラビの声ではなくメロディが流れ始めた

 

『HAPPY BIRTHDAY TO YOU』 のメロディだ

 

神田は一瞬目を開き驚いた様子でラビを見て、そのままメロディを聴きながら

ラビの許へ足を運ぶ。

ワンコーラスのメロディが流れ終わるのとほぼ同時にラビの前に立っていた。

携帯電話を耳から離し折りたたんだ後、ズボンのポケットに突っ込む。

「随分洒落た演出だな」

「悪くないっしょ?こういうの」

ラビは悪戯っぽく微笑む。

「あのな、こういう事は彼女にしてやれよ」

神田はいささか呆れた表情をラビに向けながら、ラビの隣りに腰を下ろす。

「嫌だった?」

「照れくせーよ」

「ふふふ・・・」

ニコニコしながら、ラビは鞄から紙袋を取り出すとそれを神田の前に差し出した。

「これ、プレゼントv」

「え?」

「受け取って!ほら!」

胸元に差し出された小さな袋を神田は手に取りラビを見た。

開けてみてと促されそっとリボンを解く。

袋の中には透明の袋にはいったストラップが顔を出した

「スト・・・」

「ストラップさ。携帯買った時にユウと選びたかったんだけど・・・」

そういえば、神田の携帯電話にはストラップなどという代物は付いていなかった。

透明の袋からストラップを取り出し、眼の前にかざしてみる。

茶色の革でできた小さくてパネル状のストラップには四葉のクローバーが彫られてあった。

そして裏面には『YU』と神田の下の名前が小さく彫られある。

「付けてあげるから、携帯出して」

ラビは神田からストラップと携帯を受け取ると、手早く付け「良い感じさ」と満足気に眺めてから神田に渡した。

「実はさ、オレも同じもの付けたんだ」

ホラと自分の携帯を神田に見せる。

革の色は神田と違って黒で裏面には『LAVI』と彫られている。

「おそろいか・・・・」

「うん。この前のネックレスとこれとあと携帯で3つおそろいさ」

ラビは嬉しそうにストラップをチャラチャラと振ってみた。

「なんか悪いな・・・この前も買ってもらったのに・・・」

「あれはあれ。コレはちゃんとしたユウへのプレゼントなんだから気にしないで」

「ありがとう。嬉しいよ。大切にするもの・・・二つだな」

「えへ。そうさね」

「あ、あのさ・・・」

神田は俯きながらストラップを指で撫ではじめた。

「どうしたさ?」

急に俯いてしまった神田を不思議そうにラビは首をかしげた。

俯いたままなかなか次の言葉を言ってくれない神田にもう一度同じ言葉をかけるラビ。

「ユウ?どうしたさ?」

ラビの声に我に返ったように神田がゆっくりと口を開いた。

「あ、あの・・・あのさ・・・」

「何?」

「・・・その・・・せっかく・・・くれたのに悪いんだが・・・」

さっきありがとうって大切にするって言ったのにやっぱり気に入らないのかな?

ラビは急に不安になった。

「うん・・・」

「あの・・・な・・・お前のソレと・・・交換しないか?」

「へ?」

「俺の為に・・・色とか名前彫るとか考えてくれたんだろうけど・・・」

俯いて早口になってくる神田の耳朶がだんだんと赤く染まってくるのを

ラビは見逃さなかった。

「コレと?」

「あ・・・嫌ならいいんだ。せっかくお前が・・・」

「いいよvv」

神田が言葉を言い終わらないうちにラビはOKの返事をすると、神田はゆっくりと顔を上げ、

頬がほんのり赤く染まってる事を自覚してるようで、照れくさそうにはにかんだ。

「でも、どうして?」

ラビは携帯からストラップを外し始める。

「お前と出会ってよかったって思ってる。お前が親友で・・・いつもその・・・感謝してる。ガキの頃から・・・だから・・・

 自分の名前を持ってるより親友のお前のを・・・」

ストラップを外していた手が止まり、ラビは神田を見つめた。

「ユウ・・・嬉しいよ。オレ・・・すっごく嬉しい。

オレだってユウに感謝してる・・・親友でよかったっていつも思ってるさ」

ふたりは微笑み合い、ラビは神田のストラップと自分のストラップを取り、それぞれの携帯に付け替えた

「ありがとう。ありがとなラビ」

携帯を受け取ると、改めて神田は礼を言った

「ユウの誕生日だから、ユウの好きなもんあげたほうがいいさねv」

わがまま言って悪いと詫びる神田に、ユウはお子ちゃまだからねと冗談ぽく笑うラビ。

「チャリ乗ってくっしょ?」

「あぁ、俺ん家寄ってけよ」

「そんな悪いさ。ユウの誕生日だし、家族で祝ってもらったほうがいいさ」

「いまさらそんな気を使うなよ。祝い事は人が多いほうがいいんだ」

「だって急だよ」

「大丈夫だ。コレがあるだろ?」

神田は携帯を取り出し自宅に電話をかけた。

「お前が来るって言ったらおふくろの声のトーン上がったぜ」

「ユウのおふくろさんに会うの久し振りさね」

「そうだな・・・」

ラビは神田を自転車の後ろに乗せ、神田の家へ向ってゆっくりとペダルをこぎ出した。

 

 

憂鬱な期末テストの期間がやってきた

 

神田の通う学校はラビの通う学校よりも1週間早くテストが始まる。

 

部活をやっていると、勉強まで手が回らないのが現状で、中学の頃からテスト期間になると、よくラビに世話になっていた。

 

ラビは外見も派手でチャラチャラとしているように見えるが、勉強もスポーツもできる奴で神田の強い見方だ。

 

もう寝ようとベッドへ潜り込んだ神田だが、机の上の携帯電話が鳴り始めたのでベッドを後に机に向かい、

 

携帯電話を手に取った。

 

「ラビ?」

 

「寝てた?」

 

「いや・・・これから寝ようかなと・・・」

 

神田はベッドに腰を下ろす

 

「わ、ごめんさ」

 

「いや、いいよ」

 

「ねぇ、ユウのとこもうすぐ期末じゃないの?」

 

「あぁ、28日からだ」

 

「ユウの方がオレんとこより1週間早いさ。オレ7日から」

 

「もう、憂鬱だぜ・・・なにもしてねぇよ」

 

「あははは・・・だろうと思って電話したんさ!手伝うよv」

 

ラビの陽気な笑声に神田の口元がほころぶ。

 

「この時ばかりはお前が友達でよかったって思うぜ」

 

「なにそれっ!テストの時だけなんさ?」

 

先日、互いに親友でよかったと打ち明けた後だから、冗談で言ってると分っていながらも

 

ラビはちょっぴりムキになった

 

「あははは・・・マジ頼むよ」

 

まったくユウは!と言いながら部活はいつまであるのかと問うラビに、来週から休みになると神田は答えた。

 

「じゃ、来週からいつものとこで待ってるさ 帰りそのまま図書館に行こ」

 

 

 

しばらく神田と下校を共に出来なかったので、テストは嫌だがこのテスト期間に感謝してしまう。

 

来週1週間、毎日放課後は一緒に居られるのだ。

 

ラビの口元は自然とほころんだ。

 

「おい。月曜日は図書館休みじゃねーの?」

 

「あっ・・・そうか・・・じゃ・・・どうしようか・・・?」

 

「俺んちでいいよ。月曜は英会話もねぇから、おふくろに付き合わされる事もねぇし」

 

「うん。じゃぁそうするさ」

 

一呼吸置いてから神田は心配そうな口調でラビに問う。

 

「お前さ・・・彼女は大丈夫なのか?一緒に勉強とかしないのか?」

 

「うん。大丈夫。テスト期間は会わない事にしたんさ」

 

「無理すんなよ」

 

「うん。」

 

明日も早いからとラビは気を使って通話を切った。

 

来週はラビと一緒に過ごせる時間があると思うと嬉しさが込み上げてくる。

 

これはいったいどうしてだろうか・・・

 

自分の気持ちに不思議さを感じながら、神田はベッドにうつ伏せになり目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

今日は金曜日。

 

あと3日経てば神田と一緒にいられる時間が出来る。

 

放課後ラビは自分の席で頬杖をつき、口元を緩めた。

 

「ねぇラビ君」

 

気がつくと交際をOKした隣のクラスの彼女が眼の前に立っていた。

 

「何かうれしそうね。いい事あった?」

 

「へへへ・・・良い事大有りさv」

 

「ふーん。ね、帰ろ」

 

「あぁ」

 

ラビは無造作に教科書を鞄に突っ込むと彼女に微笑んだ。

 

 

 

綺麗というよりは可愛いタイプ。プロポーションだって悪くない。

 

こんな女の子が彼女だっていうのは、他の男からみたら幸せな奴だとみられてるだろう。

 

ふたりは並んで校門を後にする。

 

「どこか寄っていく?」

 

「う~ん。買い物付き合ってもらっていい?」

 

「あぁ、いいさ」

 

ふたりは駅前行きのバスに乗り、先日神田と携帯電話を買いに行った帰りに寄った駅ビルに行き、

 

彼女は服と鞄を購入した。

 

しかし、女の子の物が売られている店というのはいろいろと沢山あるもんだと思った。

 

しかもキラキラと華やかだ。

 

彼女に振り回され流石に足がだるくなってきたので、休憩がてらお茶でもしようとラビは提案した。

 

この前、神田と入ったファーストフード店とは反対側の小さなコーヒーショップへふたりは入った。

 

注文しコーヒーを受け取り席につく。

 

「ごめんね。つき合わせちゃって・・・」

 

彼女はアイスコーヒーにストローを指しながらラビを見た。

 

「別にいいさ」

 

「ねぇ、ラビ君」

 

「ん?」

 

「こんな事女の子から頼むのってちょっと何だけど・・・」

 

「・・・・・?」

 

「何かおそろいのモノがほしいの。ラビ君とおそろいの・・・」

 

「えっ?」

 

おそろいという言葉を聞いてラビは何故か身構えてしまった。

 

ラビ自身の中では『おそろい』は信頼しあえる神田としかないと思っているからだ。

 

ストローをくわえ固まってるラビに追い討ちをかけるように彼女は声をかける。

 

「ねぇ、いい?」

 

「あ、あのさ・・・まだオレら付き合って1ヵ月も経ってないさ」

 

「・・・・・・」

 

「君のこともまだ良く分ってない訳で・・・その・・・おそろいとかって

 

 まだ早い気もするんだけど・・・」

 

あたふたと彼女に言葉を返すラビを不思議そうに見つめる彼女。

 

「ラビ君さ、他に好きな子いるの?」

 

「え?」

 

彼女は真っ直ぐにラビを見つめてくる。

 

「す、好きな子なんかいないさ・・・」

 

「ふ~ん。ラビ君ってさ、もっと軽い考えの人かと思ってた。意外と固いんだ・・・」

 

「・・・・・・」

 

彼女はクスッっと笑って俯いた。

 

結構紳士なんだなっと思い、ますますラビに心惹かれた。

 

その後、1時間位たわいのない事を話しふたりは店を出た。

 

ラビはバス停まで彼女を送った後、電車で帰宅する。

 

「おそろい・・・か・・・。参ったさ・・・」

 

 

 

駅に着き改札口を抜け、自転車置き場の自転車を出す。

 

自転車をこぎ出してまもなく、前方に髪をひとつに結い上げ、大きな荷物を肩から下げている学生が

 

歩いているのが視界に入ってきた。

 

「ユウっ!」

 

ラビは速度を速め神田の名を呼んだ。

 

振り向いた神田は、息が上がってるラビを見て少々驚いた顔をしている。

 

「今帰りさ?」

 

「そうだけど、お前も今帰りか?」

 

「うん。そうさ。」

 

「随分おそいな・・・デートか?」

 

「まぁね・・・荷物、カゴに乗っけて」

 

「重いぞ」

 

神田の荷物を自転車の前籠に乗せるとラビは「乗ってく?」と後ろの荷台を指差した。

 

「いや、たまには歩かないか?」との神田に、自転車を押しながら歩き出した。

 

「帰ったら電話しようと思ってたんだが・・・」

 

「何さ?」

 

「明日、明後日の土日だけど・・・明日は練習午前中だけで、日曜日は休みになった」

 

「えっ!そうなんさ?!」

 

「んな、デカイ声出すなよ」

 

「だって・・・」

 

神田と一緒に過ごせるのが少しだけ早まって気持ちが高揚してしまう。

 

「でさ、明日っから勉強見てもらえるかな・・・あ、お前の都合がよければだけど・・・」

 

「もっちろんさ!」

 

「デートとか・・・ないのか?」

 

「ないないないっ!」

 

ラビは左手をブンブンと神田の眼の前で左右に振った。

 

「よかった。予定外だったからダメって言われるかと思った」

 

「えへへ・・・きっとユウの気持ちがオレに通じたんさ」

 

「え?」

 

「ンふふ~。なんでもないさっ!」

 

ラビはニッコリと微笑み神田を見た。

 

神田の家の前に到着すると、寄っていくかと誘われたが、

 

明日の楽しみに取っておくとラビは自宅に向って自転車をこぎ出した。

 

彼女と会っている時よりも、高揚する胸の高鳴りはどういう事なのかと戸惑いながら・・・

 

 

 >>【4】へ続く