ココロの二重奏

 

 

 

 

放課後、教科書や参考書を机に広げたまま、アルトは頬杖をつき窓の外をぼんやりと

眺めていた。

窓側のこの席は結構気に入っている。

明後日提出の課題を終わらせようと思っていたが、どうやら事は上手く進まず、

窓の向こうの青い空ばかり見てしまう。

「おやおやご熱心ですな」

教室のドアが開かれる音と共に聞きなれた声がする。

それでもアルトは身動きせず、視線は空へいったままだ。

声の主はアルトの前席の椅子をまたぎ、腰を下ろしながら背もたれに両腕を乗せる。

「ミシェルか?」

「進んでる?」

「いや・・・全然・・・授業出てない事がキツイな」

SMSの訓練や出撃で授業に出られない事が月の半分を占めている。

クラスメートにノートを借りても、理解できないところがほとんどだ。

「お前だって同じ事してんのに、余裕だよな」

そうなのだ。同じ美星学園の学生であり、SMSの隊員であるミハエル。

しかも、射撃手であるミハエルは射撃訓練も受けるので、

自分より1つ訓練が多いことになる。

それなのに、ミハエルは涼しい顔でちゃんと課題は提出していた。

アルトはやっとミシェルに視線を向ける。

穏やかに自分を見ていたミハエルの翡翠のような緑の瞳にドキッとする。

「そうでもないさ。これでも大変な思いもしてる」

「はっ!どうだか。お前はいつだって余裕ぶっこいてる。

勉強はできるし、スポーツだってまんざらじゃない。

外見だってカッコいいし、おまけにSMSじゃエースパイロットの上、名射撃手。

で、いつだって冷静沈着。 女にはモテるし・・・・」

アルトの口はだんだん尖がっていく。

「あのさ、姫。それって誉めてくれてんの?」

まだ何か言いたそうなアルトを覗き込み、ミハエルは首を傾げた。

「えぇっ!あ・・・その・・・誉めてんじゃねぇよ・・・けど

えっと・・・ゼントラーディの血が羨ましい・・・っていうか・・・」

ミハエルの事を誉めてたのか、それとも(ひが)んでたのか。

確かにミハエルは全てにおいて自分より上だ。

[万年2位のアルト姫]と自分をちゃかす位、自信だって持っている。

負けたくない。追い越してやると思っている反面、大きく包んでくれる

所にかなり甘えているのも事実。

ミハエルの存在がどんどん自分の中で大きくなっていくのも分かっていた。

友情とかライバルとかそんな感情の他に、熱い物が生まれてきている事も・・・

ミハエルの緑の瞳に、そんな自分の心の中を見透かされたようでアルトは慌てた。

「俺は、のお前が好きだけどな」ミハエルはニッコリと微笑んだ。

「す・・・好きって・・・」

「うん。好きだよ。アルト姫」

穏やかな緑の瞳は真っ直ぐにアルトの瞳の奥に入り込んできた。

「あ・・えっと・・・か、課題やらないと・・・」

頬が紅く染まり熱くなってくるのが分かると、アルトは資料に目を向けた。

すぐに頬を紅く染めるアルトを愛おしそうにミハエルは見つめる。

「ねぇ、姫?」

「なっなんだよ」

「ちょっと耳かして」

「耳?」

「いいから、早く。いい事教えてやるよ。」

言われたとおりアルトは上体を前に傾けミハエルに耳を近づけた。

ミハエルの唇が耳元に近付くと「あのさ・・・」と小さく囁いてきた。

何を言い出すんだと少し期待しながら、次の言葉を待っていたアルトの顎を

ミハエルの右手が(さら)い、耳元にあったはずのミハエルの唇がアルトの唇に重なった。

「んっ!」

仰天したアルトは目を見開いた。瞼を閉じてるミハエルの睫毛が以外にも長い事に

見とれていたら、うっすらとその瞼が動き開き始める。

「目、閉じて」

少し唇を離すとミハエルは低く囁いた。

「あ・・・うん・・・」

ミハエルの声が大人げで、なんだか言われたとおりにしないといけないような気になって、

アルトは目を閉じた。

再び唇にやわらかい感触が伝わると、それはゆっくりとアルトの唇の上で動き少しずつ

吸い上げた。

「んんん・・・」

アルトは小さく喘ぐような声を出す。ミハエルはうっすらと瞼を少し開けてアルトの顔を

見ると、相変わらず頬を紅く染め瞼をきつく閉じている。

(可愛いな・・・)

ミハエルは再び目を閉じると、舌をゆっくりアルトの口内に滑らせていく。

ミハエルの舌はアルトの舌に絡みつき、唇はそれを吸い上げる。

「んはぁっ」

アルトは浅く呼吸をすると、「ミ、ミシェル・・・まって!」と唇を離した。

俯いたアルトの呼吸は少し乱れている

ミハエルは席を立ち上がり、アルトの隣りに腰掛けると

「もしかして、初めてだった?キス・・・」と、アルトの肩をやさしく抱いた。

「ばっ!・・・う、うるせー!」

「いい事、教えてやったろ?」

アルトの肩を抱く手に力を入れながら、俯くアルトを覗き込んだ。

「お、お前は・・・初めてじゃないだろ?」

ぼそっとつぶやくように言いながら、視線だけをミハエルに向けた。

「初めてだよ・・・・」

「ふざけんなよ」

「ふざけてないさ。本物のキスは初めてって事。」

「は?訳わかんねぇ」

アルトの口はまた尖がってきた。

「物分りの悪いお姫様だなぁ 本当に好きな子とのキスの事だよ」

ミハエルは抱いているアルトの肩を自分に引き寄せる。

「正直、何回か女の子とした事あるよ。でも本気じゃなかったから、う~ん。

なんていったらいいのかな?ママとのキスみたいな感じだったんだ。

だから、ドキドキしない。」

アルトは引き寄せられた身体にミハエルの体温がシャツごしから伝わるのを感じながら

ミハエルの言葉を聞いていた。

「今、ドキドキしてんの分かる?爆発しそうなくらいに・・・」

「え?」

「こんなのは初めてさ・・・」

ミハエルはアルトの手を掴んで、「ここが」と自分の左胸に当てる。

アルトは顔を上げミハエルを見つめた。

穏やかに口元を緩めたミハエルの顔から、自分の手がある左胸に視線を移す。

そして、アルトはミハエルの左胸に当てている自分の手をゆっくり離し、

少し(こご)んでで、今度は耳を当ててみた。

トクントクンと心臓の音が聞こえる。

ミハエルの音、愛おしい人の大切な音。

早まる自分の鼓動と二重奏となって聞こえてくる心の音。

しばらくこうしていたいとミハエルに告げるとアルトは目を閉じた。

もやもやと熱い物が生まれていた事がなんだと実感し、

温かい今、この時が切なくてミハエルの腕を掴んだ。

「姫・・・?」

アルトの頭を撫で、(せい)(らん)な髪を指に絡ませキスを落としていたミハエルが、腕を掴まれ

少し驚いたようだ。

「ミシェル・・・あのさ・・・お前みたいにカッコよく言えないけど・・・その、

お前の事・・・・」

アルトは少しだけ息を大きく吸ってから「すき・・・・なんだ」とゆっくり告げた後

ミハエルの胸に顔を埋めた。

「カッコよく言えたよ」

暖かな笑みを向けミハエルはアルトをしっかりと強く抱きしめる。

やっと巡り会えた本物の恋に喜びを感じ、甘く切ない味の雫が、

翡翠の瞳から溢れ頬を伝った。

 

 

 

 

………TOUCH DOWN……………………………………………………………………

「トライアングラー」と「アナタノオト」を聴いて

通勤電車の中で思いついたお話しです。

わー!ミハまで泣かせてしまいました(汗)

同い年のミハアルですが、ミハは姫を大きく包んでいてしっかりリードする

頼れる奴で、姫は頑張り屋さんですが、どこかでミハを頼ってる

ヘタったとこが可愛い。そんなウチのミハアルです。

恋心は厄介なもので、想いを伝えられないと切なくて、伝わっても切なくて

どうしようもないモノでございます。

ミハと姫にはいつまでも仲良くしててほしいです。

                                  2008年11月26日

                                           るきと