=ラビ誕生日祝小説=

 

夏の華と僕の華    -学生設定です-

 

 

 

 

 

 

8月に入ってすぐの土曜日は街の大きな花火大会だ。

今日はその当日で、朝から何となく街中が騒がしい。

夏休み中であるが、ラビも神田も部活動で早朝からの練習があり学校にいた。

出会った高校1年の夏も、去年もこの花火大会はふたりで観に出かけていて、

高校3年になった今年も恒例だからと出かける約束をしていた。

ラビは蒸し暑い体育館の中に散らばった、バスケットボールを

後輩達と倉庫に片付けに行き、全体での挨拶を終わらせたあと、

今日の練習内容をノートに記録させる。

バスケットボール部の部長であるラビはいつも練習後には、

メンバーひとりひとりの練習内容をノートに残し、

いつも体育館を一番最後に出る。

約1時間弱かけてノートに記したあと、ラビは大きく伸びをした。

「さぁてと、ユウは終わったかな・・・」

制服のシャツに着替え、武道場へと足を運ぶ。

剣道部である神田は、丁度防具を外し、袴姿で一息いれていた。

「ユウ!」

大きく手を振ってラビは神田の名を呼んだ。

「わりぃ 今、終わった」

神田は手招きをして同道場に入ってくるようラビを促した。

ラビはシューズを脱ぎ、道場の中へと入っていく。

帰り支度をしている神田の後輩達が、

気持ちがいいくらいに大きな声で挨拶をしてくるのが、

何となく恥ずかしい。

ラビは「お疲れ様」と声をかけながら、足早に神田のとなりにしゃがみ込む。

「ユウの後輩くん達、いつも元気さ」

「それだけが取り柄だ」

神田は防具を片付けながら答える。

神田もやはり剣道部の部長をしているので、

練習の後は点検をし、武道場を出るのはいつも最後だ。

「着替えてくるから、ここにいろ」

そう言って神田は首に巻いていた手ぬぐいをラビの頭の上にポンと被せ、

ロッカールームに向かった。

被された手ぬぐいを頭から取り、手にとって見つめるラビ。

そして、その手ぬぐいに顔を埋めてみる。

神田の香りが心地よく香ってくる。

(ユウっていい香りだな・・・)

ラビはしばらく手ぬぐいに顔を埋めたまま目を閉じていた。

 

ピシャンと頭を叩かれ、慌てて顔を上げると制服のシャツに着替えた神田が、

竹刀を手に持って立っていた。

「何寝てんだよ」

「ひっどいさぁ~竹刀で叩くなんて・・・」

叩かれた頭を撫でながらラビの眉毛は八の字になる。

そんなラビの姿を見て、神田は悪戯っぽく微笑みながら竹刀を袋に納めた。

「ねぇ ユウ」

「ん?」

「この手ぬぐい、貰っていい?」

「あぁ?欲しけりゃキレイなの ウチから持ってくるぜ」

「いいの コレが欲しいさ」

「変なヤツ・・・」

「ね?いい?」

「お前がよけりゃ 別に構わねぇよ」

ラビはやった!とニコニコしながら手ぬぐいを首に巻いた。

時々見せるラビの無邪気な態度は、神田を和ませた。

神田は帰り支度をした後、道場の点検をしてふたりは帰宅路についた。

 

 

 

家に戻ってジーンズとTシャツに着替える。

先ほど、神田から貰った手ぬぐいをラビはキレイにたたんで、

自分の机の上に置いた。

花火大会の時間まで3時間程時間がある。

神田との待ち合わせまであと2時間。

高校に入学して、初めて神田と出会った。

右も左も分からない入学式の日、

初めて話しをしたのが隣りに座っていた神田だった。

家も同じ方向で、聞けば高校進学を機にこの町に引っ越してきたという。

性格も好みも正反対のふたりだが、

気が合い、今では自分の事を一番理解してくれている存在だ。

しかし、ラビの心の中には親友以上の何かが神田に対して膨らみ始め

それが“恋心”だと気づくのに時間はさほどかからなかった。

ラビの心の中は神田を恋しく思う気持ちに溢れ

切ない思いでいっぱいになった。

この恋心を神田に伝えるか否か悩んだが、伝えないまま後悔はしたくなかったので

思い切って3年になってすぐに打ち明けた。

しかし、思いもよらない結果となった。

神田も自分に対して恋心を抱いていたのだ。

喜び以上に、信じられない気持ちが大きく広がった。

気持ちを伝え相手の気持ちも分かったが、それでも恋しく切ない気持ちは変わらない。

会いたい、声を聞きたい、触れていたい、笑顔を見たい、ずっと一緒にいたい・・・

ラビにとって神田は一番大切な存在となった。

その神田から貰った手ぬぐいは、ラビの宝物となる。

(お袋にバレないようにしないと・・・洗濯されて使われちゃうさ・・・)

たたんだ手ぬぐいを机の引き出しにしまい、ベッドにころがった。

 

 

 

 

すっかり日も暮れ、神田との待ち合わせ場所へラビは急いだ。

ベッドでゴロゴロと雑誌を読んでいるうちにウトウトと寝てしまったらしい。

約束の時間を15分程過ぎてしまっていた。

携帯電話のメールで謝っておいたが、神田からの返信はこない。

神田はメールに関しては無関心と言っていいほどで、

返信をよこしてこないのはしょっちゅうである。

それについてはラビは気にしていないが、気持ちは焦っていた。

 

待ち合わせ場所の駅前のポストが見えてきた。

神田は腕組をして、ポストに寄りかかっている。

「ユウ!ごめんさっ!」

口で謝ってみたものの、ラビの視線は神田の姿を見て固まっていた。

口をポカンとあけて固まっているラビを見て、

神田は不思議そうにラビの顔を覗き込む。

「どうした?」

「え、あ・・・ぁぁ ユ・・・ウ・・・その・・・そのカッコ・・・」

「あ、あぁ 浴衣か?」

「すっ・・・すっげぇ いい・・・」

「あ"ぁ?」

「ユウ すっごく・・・何ていうか・・・えっと・・・似合う じゃなくて ごにょごにょ・・・」

「何だよ はっきりしゃべれよ」

「はっきりって・・・そのーあー き・・・き・・・」

「えっ?」

「ユ、ユウ! 綺麗さっっっ!」

ラビは一気に言葉を投げ、俯いてしまった。

前髪の隙間から見えるラビの頬は髪の色に負けず真っ赤に染まり、

神田はその様子をみて目を細めた。

「お袋がさ、着てけってうるせーんだよ。

 祭りと花火大会は浴衣でしょ!とか何とか言ってさ」

紺色の綿の生地に ( かすり ) 模様の浴衣に、黒の絞り三尺帯を巻いている。

髪もいつもより高く結い上げ赤い帯紐の様なもので結ってある。

「でもお前が褒めてくれたから、着てきて正解だったな」

神田の言葉に、驚いた表情をしてラビは顔を上げた。

「ユウ・・・」

ラビには眼の前の神田が眩しくて仕方がなかった。

「何て顔してんだよ。さ、急ごうぜ。始まっちまうぞ」

そう言いながらラビの額を指で弾いた。

ここが街中でなければ、このまま神田を引き寄せて抱きしめたかった。

しかし、驚いた事に神田が手を差し伸べてきたのだ。

「え?」

ラビは神田の顔を見ると「ホラ、早くしろよ」と差し出した手のひらを、

開いたり閉じたりしている。

差し出された神田の手のひらに、ラビは自分の手を乗せると

神田はラビの手を握り締めてきた。

神田は優しく微笑み、ラビの手を引いて歩き出した。

男同士で街中を手を繋いで歩くのもどうかと思ったが、

黙って自分の手を引いて歩く神田の歩調に合わせて神田の隣に並んで歩いた。

神田が履いている下駄の音が、カランコロンと心地よく響く。

「ねぇ ユウ」

「ん?」

「下駄の音っていいさね」

「そうか?」

「うん」

ラビは繋いでる手を握り返し、二人は顔を見合わせ微笑み合った。

 

途中、露店が何件が軒を連ねていた。

その中のひとつに水あめの店を見つけ、ラビは杏の飴を買いたいと言い出した。

「ユウは食べる?」

「いや、いらねぇ」

「おじさん!杏1コ!」

「はいよ!」

ラビは代金を支払う為、繋いでいた手を離した。

ポケットから財布を取り出して店主に代金を支払う。

神田はその間、隣り店の金魚すくいを眺めていた。

「兄ちゃん 随分べっぴんさん連れてんねー」

「え?」

「美人と一緒に花火見られて、いやぁ~羨ましいよ!」

そう言いながら店主は杏にたっぷりと水あめを付けてラビに手渡す。

「あ、ありがとさ」

「まいどー!また来いよ。べっぴんさんによろしくな」

ラビはぺこっと会釈をして神田の許に戻る。

「ねぇ ユウ 聞いた?」

「あんだけでけぇ声のオヤジじゃ聞こえねぇ方がおかしいぜ」

「ユウの事、美人さんだって」

「フンっ」

「オレ、何か嬉しいさ。自分の好きな人を褒められてさ」

「アホか。ほれっ」

神田は口を尖らせて、また手を差し伸べてきた。

ラビはニッコリしながら神田の手を握りしめた。

「旨いか?」

ぺろぺろと水あめを子供の様に舐めてるラビを、神田は愛おしそうに見つめる。

「うん。ユウも舐める?」

「俺はいい。甘いモンは苦手だ」

「たまには甘いものも食べた方がいいんさ」

ラビは神田の眼の前に水あめを突きつける。

「あ・・・それじゃ、一口だけな」

神田は水あめを持つラビの手首を掴んで自分の口に近づけた。

そして口から舌を少し出し、水あめを舐めた。

神田のピンク色の舌に、ラビはドキドキしてしまった。

「やっぱ、甘ぇのは苦手だな」

「そ、そう?一口くらいどって事ないさっ!」

ラビは自分の胸の高鳴りを隠すように大げさに笑って言った。

 

 

ドーン!!!という爆音と共に夜空に大輪の華が咲く。

それと同時に歓声が響く。

「うわぁ!始まったさっ!」

「すっげーな」

二人は夜空を見上げる。

「あ、ユウ あっちで観るさ」

ラビは神田の手を引っ張って人が比較的少なそうな芝の上を陣取った。

「座って見たほうがいいよ」

「そうだな」

「あっ、ちょっと待って!」

腰を下ろそうとした神田にストップをかけ、ラビはズボンのポケットから

ハンカチを出して芝の上に敷いた。

「ユウはこの上に座るさ」

「え、いいよ・・・そんな気ぃ使うなよ」

「だめだめ。浴衣が汚れるから」

「あ、ありがとな」

二人は芝に並んで腰を下ろした。

バンバンと連続して上がる花火にいちいち歓声を上げるラビ。

「おめーうっせーよ」と言いながらも、微笑む神田。

 

40分位たった頃、ラビは飲み物を買ってくると言い出した。

飴を舐めていたせいか喉が渇いたらしい。

「ユウ 帰っちゃだめさ」

「帰らねぇよ」

「ナンパされても付いて行っちゃだめさ」

「くだらねぇ事言ってねぇでさっさと行け」

「すぐ戻るから」

ラビは飲み物を買いに行き、ひとり残された神田は、両腕を後ろに付き夜空を仰いだ。

 

3年になってすぐの金曜日の放課後、ラビから気持ちを打ち明けられた。

神田は自分もラビに対して親友以上の気持ちを持ち始めていた頃だったので、

ラビの告白は驚きと嬉しさで信じられないと思った。

それからまだ3ヶ月位しか経ってないが、ラビと一緒にいる時間が唯一の楽しみであり、

ホッとする時間でもあった。

そして、彼が一番大切な人となった。

ラビを想い切なくなる。これが恋なんだと実感した。

 

 

サクサクと芝を踏む音が聞こえてきたのでそちらに顔を向けると

ラビがニコニコしながら手には麦茶が入ったペットボトルを二つ持って近付いてきた。

「おまたせ! ハイ、ユウの」

ラビはペットボトルを神田に差し出す。

「わりぃな」

「いいんさ。オレが飲みたかったんだから。」

 ペットボトルのキャップを開け、喉を鳴らしてラビは飲み始めた。

「うっはぁぁっ~」

「旨そうに飲むなぁ」

「エヘへ・・・でもさ、ユウをひとりで残して行くと

 心配さ。ナンパされるんじゃないかって・・・」

「んな訳ねぇよ」

「あるさ!ユウ美人さんだもん。屋台のオヤジも言ってたじゃんっ

ユウ 本当にナンパされなかったさ?」

「されねぇよ。」

「ホントさ?」

「俺の身体中、お前の名前が貼ってあるんだぜ」

神田はペットボトルの蓋を開けながら、ラビを悪戯っぽく見つめる。

「ユウ?」

憎らしいほど何気なく、遠回りに自分の気持ちをぶつけてくる神田に、

ラビは時々戸惑ってしまう。

「オレ、ユウを守りたいんさ」

「アホかっ!」

急に真面目な視線で見つめてくるラビに、神田は照れくさくなり視線を反らし、

ペットボトルを口に当て夜空に咲く大輪に視線を移した。

 

 

花火もそろそろフィナーレの時間となってきたせいか、

連続しての打ち上げが多くなってきた

「そろそろフィナーレかな」

「あぁ・・・」

ふたりは打ち上げの残り時間を堪能する。

激しく唸るような爆音と共に連続して大輪が夜空を明るく染める。

「すげぇーすげぇー」

ふたりは思わず立ち上がり、最後に咲いたヤナギ花火の連続には拍手さえしてしまった。

「すごかったさぁ!」

「迫力あるよな」

「また来年も一緒にくるさ」

「あぁ、そうだな・・・・・ところでさ。」

神田は再び芝に敷かれたハンカチの上に腰を下ろした。

ラビも隣りに続けて腰を下ろす。

「ユウ どうしたさ?」

「お前、来週・・・誕生日だよな」

「え?覚えていてくれたんさ?」

「プレゼント・・・何か欲しいもんあるか?

 考えてんだけど、わかんねぇよ」

「あるさ」

「あ、あまり高価なもんはダメだぞ」

ラビの即答に、神田は慌てて言葉を付け加える。

「お金じゃ買えないさ」

ラビは右手で神田の頬に掛かる髪を絡め、そのまま頬を撫でた。

「ラビ?」

 

「ユウ・・・ユウが欲しいさ。

 ユウが傍にいてくれれば、それでいいさ」

「そんなの プレゼントになんねぇよ」

「なるさ。オレが一番欲しいものだもん」

「でも、何か形にしてお前に贈りてぇよ」

自分の頬に当てられたラビの手の上に神田は自分の手を添え、ラビを見つめた。

「形はあるさ。ユウの存在そのものが形だもん」

ラビはゆっくりと自分の額を近づけ神田の額に付けた。

「変なヤツ・・・・」

「変なヤツさ。ユウを想いすぎておかしくなったさ」

ラビは左手も神田の頬に当て、唇を近づけそっと神田の唇に触れた。

「ん・・・」

初めての口づけに、神田は驚いた様子だ。

一端唇が離れるとラビは神田の前髪をかき上げ、額に口づけた。

「ね?いいでしょ。プレゼント・・・」

「こんなんで、よければな」

「今までで一番最高なプレゼントさ」

再び二人は唇を重ね、神田は両腕をラビの首に回し赤毛を撫で、

ラビは両腕を神田の背中に回し強く抱いた。

互いの名前を呼び合いながら、

強く抱きしめ合い、浅い呼吸をしながら何度も唇を重ねた。

「ユウ・・・ありがとう・・・」

 

華やかな夜空は静粛を取り戻し、

月明かりがふたりを軟らかく包み込んだ。





 

 

◇postscript◇

ラビたんお誕生日祝小説です。学生設定です。

真夏生まれのラビたんですから、夏の風物詩、花火を題材にしました。

ふたりとも、もう相手の気持ちを分かった上での設定だったので

結構書きやすかったです。

そしてやっぱりラビたんが一番喜ぶプレゼントはユウ自身だと思う

ので、こんなんなりました・・・ハイ

ユウの浴衣姿はラビたんじゃなくてもドキドキします。

浴衣のユウを登場させたので、最後はエロチックにしたかったけど

あえて、爽やかな感じで終わらせてみました。

ラビたん!

これからもずっとずっとユウと仲良く、イチャイチャしてください

HappyBirthday!ラビたん!

                     2008・8・10