刻まれた文字の意味  (ラビュ学生設定です)

        =ユウ誕生日祝小説=

 

 

 

 

 

すっかり陽も暮れ、あたりは薄暗くなり街灯が灯り始めた。

神田は剣道部の部活動を終え、竹刀に防具袋をぶら下げ肩に乗せ電車から降りる。

帰宅するサラリーマンや学生に混じりながらホームを後にした。

すっかり遅くなってしまったな・・・と腕時計をチラッと見ると、針は21時前を

指していた。

後輩の試合が近いので、稽古の相手をしているうちにいつもの時間より大幅に帰宅時間が

遅くなった訳だ。

(腹がへったな・・・)

菓子パンでも買っていこうかとも思ったが、家に帰ればすぐに夕飯なので家路を急ごうと

改札を抜けた。

 

「荷物、重そうさね。お帰り ユウ」

 

突然の聞き慣れた声に神田は立ち止まり振り向くと、柱にもたれ掛かり腕組をしている

ラビが視線に入ってきた。

ラビは小学校の頃からずっと仲良くて、親友といえる奴だ。

外見は神田と違って華やかなので軽い感じに見られがちだが、芯はしっかりしてる。

 

「なんだよ。先に帰ってたんじゃねぇのか?」

 

3時50分にホームルームが終わった途端、教室を飛び出して行ったはずなのに。

 

「家にはまだ帰ってないさ」

「ふ~ん どーせ女でもひっかけに行ってたんだろ?」

「ユウの想像にまかせるさ」

 

ここ最近のラビの行動に、神田はいささかイラついていた。

部活に入っていないラビはだいたい神田の部活が終わるまで

教室や図書室等で時間を潰したり、

スポーツ万能な彼は体育会系の部活から声をかけられ助っ人しに行ったりしながら

待っていて、毎日一緒に帰宅していたのだ。

 

 

しかし、ここ1ヵ月近く前からホームルームが終わると、

途端に教室を飛び出して行ってしまうラビを捕まえる事もできずにいた。

とたんにラビとの会話が減ってしまった。

携帯に電話をして理由を問うても、なんとなく流されて終わってしまっていた。

女の子と付き合う事にでもなったのだろう。

それならそれで一言くらい言ってくれても良さそうなものだ。

 

「で、どうしたんだよ」

「久し振りに一緒に帰ろうかな・・・って」

「ふん。勝手な事ぬかしやがって」

 

自分の方に歩み寄ってきたラビを無視するかのように、神田は歩き始めた。

ラビは神田のとなりで歩調を合わせる。

 

「気にしてるだろうなって思ってたさ」

「・・・・・・」

 

「ねぇ・・・怒ってる?」

「なんで怒る必要があるんだよ」

「だって・・・」

「お前が何をしようが、いちいち俺の許可を取ることはねぇだろ」

「ん・・・まぁ、そうだけど・・・」

「女と付き合うならそれでいいじゃねぇか」

「え?」

「野郎同士でいるよりは、楽しいもんな」

「ユウ?」

「今度紹介しろよ。みずくさいだろ」

 

神田は自分が早く下校していた事が、“彼女が出来た”と思っているのだろうか。

少なくとも女がらみだと思っている事は間違いなさそうだと察したラビは、

それはそれで仕方がない事だと思った。

 

「そ、そうさね・・・そのうちね」

 

ふたりはしばらく黙って歩いた。

 

公園の横を通りかかると、ラビは神田の前に立ち止まりニッコリと微笑んだ。

 

「少し、時間いい?」

「は?」

「そこのベンチで・・・話ししたいさ」

「まぁ・・・別にいいけど・・・」

 

ふたりはそのまま公園のベンチへ向かい腰を下ろす。

剣道の防具を肩からはずして、一息つく神田を見てラビは

「ホントに重そうさ。ユウの華奢な身体じゃ大変さ」

と肩をすくめる。

 

「で、何だよ。話しって」

「うん。オレがどうして早く帰ってたかちゃんと訳を話そうかと思って・・・」

「あぁ? 女のトコに行ってたんじゃねぇのかよ?」

「違うさ・・・バイトさ」

「バイト?」

「あぁ」

「は~ん。小遣いが少なくって女にメシもおごれねぇからか?」

「やだなぁ ユウ・・・どうして女がつくのさ」

「だってそうだろうが・・・」

 

ラビは溜め息を一息つき、ベンチの背もたれに背中を押し付け星空を仰ぐ。

 

「女じゃないさ」

「は?」

 

ラビは身体の向きを神田に向け、視線を一気に神田の瞳に向けた。

ラビの真剣なまなざしに神田は戸惑い視線をそらした。

 

「じ、じゃぁ・・・なんだよ。家の都合とか?」

「それもハズレ」

 

ラビはバックの中から1つの小さな包み紙を取り出し、神田の前に差し出した。

 

「こ、これさ・・・受け取って欲しいさ・・・」

「・・・・・・」

「今日、ユウの誕生日さ」

「覚えていたのかよ・・・・」

 

確かに今日は神田の18歳の誕生日だ。

だからって、特別に何かしてもらう訳でもなかった。

もう18になるんだし、小さい子の様に家族がちやほや祝ってくれる訳でもなかった。

少し夕飯のメニューがいつもより豪華になるくらいで・・・

 

「忘れる訳、ないじゃん!」

「おまえ・・・」

 

神田は包み紙をじっとみつめた。

 

「ね、見てないで開けてみて」

 

促すラビに神田はゆっくりと包み紙を開いてみると、

ブルーのリボンが掛かった小さな白い箱が現われた。

神田はラビの顔をチラッとみると、ニッコリと微笑んでいる。

続けてブルーのリボンを解き、白い箱の蓋をそっと開けてみた。

中からは銀色に光るリングが1つ、ちょこんと顔を出した。

 

「指輪?」

「うん。ユウはアクセサリーなんか付けないだろうけど、意外と似合うと思うんさ」

「意外ってなんだよ」

 

なんの飾りもなく、石も入っていないシンプルなデザインの指輪だが、

しっかりとしていて重量があるので、高価なものだというのは分かる。

神田は箱の中から指輪を取り出すと目の前にかざし、まじまじと見てみる。

 

「何か書いてある」

「読める?」

「わかんねぇよ」

Amour de l'éternité フランス語さ」

「かっこつけてんじゃねぇよ。日本語にしろ」

「日本語では、オレが言うさ。 ちょっと貸して」

 

ラビは神田から指輪を受け取ると、

神田の左手を掴み上げそっと自分のてのひらに乗せ薬指に指輪をはめ込んだ。

 

「似合うさ」

「あのさ・・・コレって・・・」

 

神田は自分の左手の薬指で光る指輪を見つめ、ほんのり頬を紅く染めた。

 

「永遠の愛」

「ん?」

「指輪の文字の意味・・・」

「・・・・・・」

 

「ユウ・・・あのさ・・・」

「・・・・・・」

「ずっと・・・ずっと前から・・・

 出会った時から ユウが好きさ」

 

ラビの告白に神田は驚き、瞳を大きく開きラビをみつめた。

自分を思ってくれていた気持ちが嬉しくて、

何よりも自分もラビが大好きで彼に対する

恋心が生まれてきていたのだ。

同じ気持ちだったんだと思うと熱いものが込み上げてきた。

どう、返事をしたらいいのか分からずに神田はうつむいてしまった。

 

「ユウ? イヤさ?」

「な、なにがだ」

「オレが・・・こんな・・・気持ちで・・・

 ユウは男なのに・・・」

 

ラビの言葉は弱々しく神田に伝わる。

 

「反対だぜ」

「?」

「お、俺もだな・・・その・・・おまえの事・・・ずっと・・・

 でも、おまえは女の子にメチャクチャもてるし、このまま親友の方が自然だと・・・」

 

神田は左手の指輪をなぞり、照れくさそうな顔をした。

 

「取り越し苦労だったみたいさね お互いに」

「そうなのか?」

「そうさ・・・」

 

ラビは神田の左手を取り、指輪にそっと口づけ両手で包みこんだ。

 

「18・・・18歳のユウの誕生日に自分の気持ち、伝えようって決めたんさ」

「高かっただろう?バイトまでして、無理しやがって・・・」

「何か形にして渡したかったんさ」

「大切にするよ。 でも学校には付けていけねぇぜ」

「わかってるさ」

 

ふたりは見つめあい微笑み、どちらからという訳でもなく瞳を閉じ、

唇を寄せ合い互いの唇にふれた。

一端離れた唇は引き合うように再び重ね合い、神田は両腕をラビの首に絡め、

ラビの両腕は神田の背中を抱いた。

かすかに唇を離し、ラビは囁く。

 

「ユウ、ハッピーバースディ・・・」

 

神田はありがとうの返事を言葉の代わりに、ラビの唇をついばみ

両腕に力を入れた。







 

POST SCRIPT------------------------------------------

久し振りのSSです。学生です!

相変わらずラブラブラビュです。ユウの誕生日に何か書きたいと思って・・・

よくあるパターンの内容になってしまって申し訳ありませんです(汗)

親友から恋人になる時って結構ドキドキだったりするんじゃないかと思います。

るきとのコミック新刊の「水曜日の午後」もそうですが、恋心を伝えてしまった事で

今までの関係がギクシャクしてしまうかもしれないと思うとドキドキでバクチみたいですよね

まぁラビュに関してはそんな事はなく、今まで以上にらぶらぶになるからいいんですけど・・・

 

HAPPY BIRTHDAY YU!!!

永遠の18歳・・・おめでとうぅぅぅ!

 

                                2008・6・6  るきと