【2】

 

 

 

夕飯の後、リビングで少しテレビを見た後、神田は風呂に入った。


しばらく、ラビと神田の母親はデザートの林檎を食べながら雑談をしていたが、


神田がそろそろ風呂から上がりそうな時間なので、ラビは神田の自室に戻り、


座卓の前に腰を下ろすと、自宅から持ってきた携帯電話のパンフレットを眺めていた。


「何だ、またそれ見てんのか?」


神田はラビの向かい側に腰を下ろし、首にかけてきたタオルで髪を拭く。


「ユウ そんな髪長くて乾かすの大変さ」


「そうでもないぜ」


「ふーん」


大雑把にタオルを頭にかぶせ、髪の水分を拭き取ってる神田をラビはじっと見つめている。


ふんわりと石鹸の香りが心地よい。


ラビの視線に気づいた神田はタオルを持つ手を止めた。


「何だよ」


「ぁ・・・ユウ 綺麗さ」


「あ”ぁ?!」


思いもよらないラビの言葉に神田は眼を丸くし、ラビは自分が発した言葉に驚き、自分の口を両手で塞いだ。


(何言ってんだ オレ・・・・ ユウは男なのに・・・)


ラビは頬を赤らめ視線を手にしてるパンフレットに移す。


神田もどうやら頬を赤く染めているようで、タオルで顔を覆っている。


ラビの発した言葉は嘘でも、お世辞でも、冗談でもなく、見て思った事が自然に言葉として出てしまったのだ。


湯上りに火照った神田の肌と濡れた髪が本当に綺麗に見えたのだ。


そして、ラビは女の子に抱く思いのような胸の鼓動を感じてる自分に驚き、パンフレットと共に手が震えた。


(オレ、今日おかしいさ・・・)


しばらくの時間、ふたりの間に沈黙がながれる。


神田はこの沈黙の雰囲気から逃れたくて口を開く。


「お、お前 何言ってんだよ」


「・・・・な・・・何って 正直にいったんさ」


「・・・・・・・・・・・・」


「自分でもわかんないさ 今、ヘンな気持ちさ どうしよう・・・オレ・・・」


「ラビ・・・・」


神田は頭に覆ったタオルを外しラビをみつめた。


「ユウ・・・」


ラビはいきなり立ち上がり、険しい表情を神田に向ける。


「わりィ オレ 帰るわ」


「え?どうしたんだよ。泊まっていくんじゃないのか?」


「オレもそのつもりだったさ。 でも・・・ごめんさ ちょっとひとりで考えたい・・・」


「・・・・・」


「連絡するさ 明日はケータイ買いにいこっ」


「あぁ 連絡待ってる」 


ラビは神田の部屋を後にし、階段を下りキッチンへ向かう。


「おばさん、オレ 帰ります」


キッチンの流し台で夕飯の片付けに食器を洗っている神田の母親は振り返る。


「あら、泊まっていくんじゃないの?」


「えへへ・・・急遽変更です。 あ、夜おそくになっちゃうかもしれませんが、ユウに電話していいですか?」


「構わないわよ。 ユウの部屋につなげるようにしておくわ」


「有り難うございます。  じゃ、御馳走様でした。」


ラビは軽く頭を下げ会釈する。


「ううん こっちこそありがとう。 いつも助かるわ」


「えへへ・・・・」 ラビはニッコリ微笑むと玄関に向かい靴を履いた。


「ねぇ あなたたち 喧嘩でもしたの?」


神田の母親は靴紐を結んでいるラビの背後で心配そうに聞いてくる。


ラビは靴紐を結び終わると、くるっと神田の母親に向き直り「いいえ、その逆かも・・・」と小さく答えた。


神田の母親はラビの返事を理解できず、きょとんとしている。


「おじゃましました」


ラビは再び軽く会釈をし、玄関のドアを開けた。


「気をつけてね」


玄関のドアが閉められ、内鍵が掛けられる音を確認すると門の生垣前に止めてある自転車にまたがり、


一呼吸する。


ドキドキと心臓がうるさく鳴り響いている。


ラビはペダルに足を乗せゆっくりと自転車を走らせた。

 

 

神田は二階の窓から、赤い髪が家から離れていくのを見送っていた。


せっかく泊まっていくと言うから夜な夜ないろいろとラビと話しが出来ると思っていただけに残念に思った。


それにしても、どうしてラビはあんなことを言ったのだろう


 

『・・・ユウ 綺麗さ・・・』

 

その言葉が神田の頭の中をグルグルと走り回り、頭を振っても叩いても消えてくれなかった。


神田はタオルを放り投げ、ベッドに身を投げた。


うつぶせになり、枕に顎を乗せる。


眼を閉じると、英会話教室でのラビの柔らかな表情が浮かんでくる、


そんなラビをみて気持ちが高揚したのも確かだ。


そして、ラビの言葉・・・・


(俺たち すっと親友だったんだ。 これからもずっと・・・・ それ以上の感情ってなんなんだよ・・・・)


神田は枕にそのまま顔をうずめた。


 

 

自宅に戻ったラビは誰も居ない部屋に、電気も付けず自室のベッドにもたれ掛かかり膝をかかえた。

 

(ユウはずっと親友なんさ  なのになにさ  このヘンな気持ちは・・・胸が苦しいさ・・・)

 

初めて襲い掛かる何とも言いがたい感情に疑問を持ちながらも、ウトウトと眠り込んでしまっていた。

 

気がつくと、床に転がっている携帯電話が暗い室内でスポットライトを浴びながらひとりで唄っているように

 

着信のメロディと共にイルミネーションが光っている。

 

ラビは携帯電話を開くとギョッとした。

 

ディスプレイには〔ユウ自宅〕とある。

 

(ユウ・・・から?)

 

受信ボタンを押し携帯電話を耳に当てる。

 

「もしもし・・・・・」

 

「何、ヘタった声だしてんだよ!」

 

やはり神田からだった。

 

「ユウ・・・なの?

 

「あぁ・・・」

 

時計を見ると夜中の2時を回っていた。

 

「こっちから掛けるって言ってて・・・ごめん・・・」

 

「いや、遅くに悪いな」

 

「ううん・・・」

 

相手に見えるはずはないのだが、ラビは首を小さく横に振る、。

 

「お前のことだから、部屋ン中真っ暗なまま、ベッドの横で座ったまま寝てんじゃねぇかって思って」

 

「うわぁ 図星さぁ ユウよく分かるさ」

 

「ふん・・・何年一緒にいるんだよ」

 

「うん・・・・」

 

「お前の事は何でも分かってるつもりなんだがな・・・」

 

「有り難う  ユウ・・・」

 

「・・・・・ぉ・・・お前はどうなんだよ」

 

「え?」

 

「俺のこと 分かってるか?」

 

「そりゃぁ もちろんさ!」

 

ふたりは受話器越しにクスクスと笑った。

 

 

 

「明日つーても、もう今日さ!携帯買いにいける?」

 

「あぁ」

 

「じゃ、10時頃、ユウん宅に迎えにいくさ」

 

「待ってる」

 

「うん・・・」

 

「じゃ・・・」 神田の低い声がラビの耳に流れる

 

「あっ! 待ってユウ!」 ラビは受話器を切られそうで慌てて声のトーンを上げた。

 

「何だ」

 

「あの・・・ありがとう・・・電話」

 

「いや、気にするな。お前の声聞けたしな」

 

「え?」

 

「あ、いや・・・ほら 急に帰っちまうから気になってたんだよ」

 

すこし照れくさそうに神田は言った。

 

「ごめん・・・ユウ・・・」

 

そうだ、本当なら今頃ユウのベッドで一緒に眠ってたんだ。

 

自分の勝手な行動に神田を心配させてしまったのは事実だ。

 

「そんな、情けねぇ声出すな」

 

弱々しいラビの言葉に神田は少し強めな口調でラビを励ます。

 

「うん・・・」

 

「じゃ、10時な。 寝坊すんなよ」

 

神田は約束の時間を確認するように言う

 

「うん。ちゃんと行くさ」

 

 

 

携帯電話の通話ボタンをOFFにして、しばらくデスプレィを眺めていた。

 

神田は自分にあんな事言われて、変な奴とか思ってないのか?

 

また、頭の中を色々な考えが巡り回り、ラビは頭を抱えた。

 

そうだ!彼女を作ろう! 

 

そうすれば、また違う気持ちでユウを見ることができるだろう。

 

自分で自分を納得させ、もう眠らないと本当に寝坊しそうなので、ベットへもぐり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、カーテンの隙間からこぼれる陽が眩しくてラビは眼を覚ました。

 

時計をみると針は8時を過ぎたところを指していた。

 

神田との約束の時間まで、まだ2時間ほどある。

 

とりあえず、台所に行き流しの蛇口をひねり、水をグラスいっぱい注ぎ飲み干した。

 

そして風呂場に向う。

 

昨夜は、神田の家からそのまま帰って眠ってしまったので、風呂に入っていないのだ。

 

これから、神田と一緒に街へ出るのにそれではいけないと思い、シャワーだけでも浴びようと思った。

 

簡単にシャワーを済ませ、腰にバスタオルを巻きつけたまま、

 

冷蔵庫から牛乳を取り出しグラスに注ぎテーブルに置く。

 

トースターに食パンを入れ、スイッチを押す。

 

パンが焼きあがるのを待ちながら、下着を身に付けジーンズを穿く。

 

パンが焼きあがると、バスタオルを首に引っ掛けテーブルに向かい、ひとり黙々と食べた。

 

あの後ユウはちゃんと眠れたのかとか、もう朝食は食べたのだろうかとか、いちいち神田の事が頭に浮かんでくる。

 

今までもいつも気にはしていたのだが、こんなに頭にこびりつくように神田の事考えてしまっているのは初めてで、

 

ラビは改めて彼女を作るべきだと思った。

 

朝食を済ませ、皿を洗い時計を見る。

 

9時を少し回ったところだ。

 

 

 

とりあえず、窓を開け散らばっている雑誌や漫画などをかたずけた。

 

 

 

まだ、時間はあるので掃除機をかけた。

 

 

 

何かしてないと、頭の中で神田が暴走しておかしくなりそうだったのだ。

 

これから、その本人に会うというのに少し落ち着かなくてはいけない。

 

窓から入ってくるさわやかな風が、ラビの赤い髪を揺らした。

 

「うん。だいぶ片付いたさ」

 

部屋の中を見回し、壁に掛かってる時計に眼をやる。

 

9時40分

 

よし、いい時間だ。

 

ラビは上半身には何も身に付けていなかったので、Tシャツを身に付け薄手のジャケットを羽織る。

 

腕時計をし、戸締りを確認し、大きく深呼吸をすると、自転車の鍵を持ち玄関のドアを開けた。

 

自転車を走らせ、神田の家へと向かう。

 

いつもと変わらぬ神田の家までの路なのに、何処か違う路を走っているようだった。

 

ペダルをこぎながら、胸が高揚する。

 

すごくドキドキしている自分にブレーキをかけたいくらいだ。

 

それなのに、あっという間に神田の家の生垣がみえてきてしまった。

 

そして、拍車をかけるよに生垣の先を見てラビの心臓は飛び出る寸前になった。

 

いつも、チャイムを鳴らして、おばさんが出て、ユウが2階から降りてくるっていうのが、

 

いつものパターンなのに、

 

今日に限って神田が腕を組んで、門の石柱にもたれかかっているのだ。

 

神田はラビの自転車の走る音に気づき、音のする方へ顔を向ける。

 

自転車はあっという間に神田の前で止まる。

 

「ユウ、どうしたの?」

 

どんな顔をしたらいいのか分からないが、とりあえずいつもの様に声をかけてみる。

 

「待ってた」 言葉少なに神田は答える。

 

「え?もう時間過ぎちゃった?

 

「いや・・・」

 

普段、学校へ行く時の神田は、長い髪を後ろで1つに束ねているが、

 

休みの日はほとんど髪を結うことはなく自然に下ろしている。

 

今日の神田の髪も自由に肩で揺れていた。

 

 

 

ラビは気づくと、そのしなやかに揺れる黒髪を眼で追っていた。

 

(本当に綺麗さ・・・)

 

ずっと今までもみてきた神田の黒髪なのに、どうして今になってこんなにも見とれてしまうのだろう。

 

「ユウ・・・」

 

「何だ?」

 

「やっぱり オレ 黙っていられないさ・・・」

 

「・・・?」

 

「ユウ・・・綺麗さ。やっぱどう見ても綺麗なんさ・・・」

 

ラビはそう言いきって俯いた。頬は紅く染まり、唇をかみ締める。

 

「ラビ・・・お前は思った事をすぐに言葉にできて羨ましいよ」

 

「え?」

 

自分が想像していた言葉とは違う言葉が返ってきて、ラビは顔を上げる。

 

紅く染まったラビの頬を見て、こいつは可愛い奴だなっと神田は笑みを漏らした。

 

「さ、行くぞ」

 

「あ・・・あぁ・・」

 

神田はラビの自転車の荷台にいつも通りまたぎ、ラビの腰に手を回した。

 

ラビははにかみながら、自転車をこぎだした。

 

そよそよとふく向かい風が暖かく気持ちがいい。

 

自分の顔が今、締りのない顔になっている状態を、

 

後ろにいる神田にみられていない事に胸を撫で下ろす気分だった。

 

街までは神田の家から自転車だと20分位かかる。

 

いつも登校時に使ってる駅とは反対方向になるが、

 

駅は大きくいろんな路線が入り込み、人も流石に多い。

 

駅ビル、デパート、ショッピング街といろいろそろっていて、見て歩いてるだけでも楽しいし、

 

大抵の物は都会と変わる事なくそろえる事ができる。

 

10分程自転車を走らせると国道にぶつかり、ここの信号機が変わるのには結構時間がかかる。

 

ふたりを乗せた自転車はこの信号機にまんまとひっかかり、しばらく待たされる羽目になる。

 

「さっき・・・」

 

ラビの背後から神田の声が聞こえた。

 

「え?」

 

ラビは顔を後ろに向ける。

 

「褒めてくれたんだよな」

 

「・・・・・・」

 

「嬉しかったぜ」

 

「!!!ユウ・・・」

 

風にもて遊ばれている髪を片手で押さえながら、神田は口尻を少し上げ、微笑みラビを見た。

 

「キモイとか汚いとか言われなくてよかったぜ」

 

神田の言葉にラビは胸が詰まり、しばらく言葉を返す事が出来ずに視線を泳がせていた。

 

「おい」とまた後ろから声がする。

 

はっと我に返ると信号機の色が青に変わっていた。

 

「大丈夫か?代わるぞ」

 

神田がボーっとしているラビを見かねて、自分が自転車をこぐ事を代わると言い出した。

 

「い・・いや、大丈夫さ」

 

ラビは慌ててペダルに足を乗せこぎ始めた。

 

10分位経って駅前の自転車置き場に到着する。

 

ふたりは各々鞄を持ち、肩を並べながら携帯ショップへと足を進めた。

 

「お前、もう買うモン決めてるのか?」

 

「あぁ 決めてるさ ユウもオレと一緒の機種でいいよね」

 

「お前にまかせるよ」

 

「ほーんとにユウはそういうとこ意欲的じゃないよね」

 

「そんなちーせーもんにこだわる方が考えらんねーよ。やる事は同じだろ」

 

「あはは そういうとこユウらしいさ」

 

 

 

自動ドアががーっとあき、電機店の中へふたりは入っていった。

 

一瞬で店内の音楽、定員の呼びかけの声が耳に入ってくる。

 

「凄い人さ・・・」

 

店内は溢れんばかりの人でごったがいしていた。

 

携帯電話のコーナーは1階の奥の方にあったので、

 

人混みをかき分けながらふたりは店内の奥へと入っていった。

 

先に足を進めるラビはちょくちょく後ろを振り返って、後からついてくる神田を気にしながら店内を歩いた。

 

ようやくお目当てのコーナーにたどり着くも、展示品の前には人が群がっていた。

 

前の人が見終わるまで待っていることにしたが、思っているほどそれは長くはなかった。

 

「ユウ、やっとみれるね」

 

「みんな何買いにきてるんだ?」

 

「ねぇ コレなんだけどさ どう?」

 

ラビは黒の携帯を手に持ち、神田の眼の前にもってくる。

 

「お前がいいんならそれでいい」

 

「色が迷うさ」

 

「そうだな」

 

「ユウのイメージは黒だな~」

 

「じゃぁ お前は赤だな」

 

「あはは じゃその色を逆にしようよ。ユウが赤でオレが黒」

 

「は?」

 

「オレ、ユウのイメージカラー持っていたいさ」

 

「俺が赤なんか持っておかしくないか?」

 

「そんな事ないさ コレ、赤っていうよりワイン色だし」

 

ワイン色のサンプルの携帯電話を開けたり閉めたりしながら首をかしげている神田を見て、

 

ラビは吹き出しそうになる。

 

(ユウ・・・かわいいさっ!)

 

 

 

「決まりね」

 

ラビはそう言いながらサンプルの携帯電話の番号札を二枚取ると、

 

神田の手を引っ張りカウンターへ向かった。

 

 

新しい携帯電話を手にし、ふたりは店を出た。

 

「スッゲー人だったさ。ねぇ これからどうする?」

 

「そうだな・・・せっかく来たんだから、少し何か見ていくか?」

 

「そうさね。あ、でも携帯の設定もやんなきゃ」

 

「帰ってからでもいい。明日も休みだし。今日こそ俺ん宅泊まっていけよ」

 

「操作のやり方 ユウに教えなきゃなんないさ。時間かかりそうだしなぁ~」

 

「これ・・・覚えるのか?」

 

神田は手に持っている袋の中にあるぶ厚い説明書を見つめる。

 

「あはは 大丈夫さ。使っていくうちに覚えるって」

 

ニッコリと神田をみつめ微笑むラビに神田も微笑んだ・

 

「頼むぜ」

 

「まかせるさっ!」

 

 

 

ふたりは駅ビルの中に入り、流行の店を見て歩いた。

 

アクセサリーの店を通りかかった時、ラビは神田の腕を引っ張った。

 

「ねぇ ユウ ちょっと見てっていい?」

 

「あぁ」

 

ウインドウ越しにラビは必死にアクセサリーを目で追っている。

 

ラビは普段も学校のない日はわりとアクセサリーを身に付けてる事が多い。

 

耳にいつも付けてるピアスは赤ん坊の頃から付けてる母親の形見だそうで、

 

コレだけは学校に許可をもらって毎日付けている。

 

一方神田は何も付けていないし、興味がなかった。

 

ウインドウ前で固まってるラビを置いて神田はふらふらと店内を見て回っていた。

 

隣りに神田がいない事に気づいたラビは慌てて店内を見回すと、

 

いささか退屈そうに商品を見ている神田が目に入ってきた。「ねぇ!ユウッ」

 

ラビは声を上げて神田を呼ぶと、神田はゆっくりとラビに近づいてきた。

 

「ねぇねぇ コレ イカしてるさ」

 

ラビが指差すウインドウの中を覗き込むと、ダイヤのようにキラキラした

 

小さな石が1つ埋め込まれたクロス(十字架)のネックレスだった。

 

「良くわかんねぇよ」

 

「ふふふ・・・ユウに聞いたオレが馬鹿だったさ」

 

「わるかったな」

 

「ねぇ お揃いで付けようよ。 オレ プレゼントするからさ」

 

「え?俺がコレを付けんのか?」

 

「そうさ。ユウ 綺麗なんだもん。きっと似合うさ」

 

「綺麗って・・・あのな・・・」

 

ラビは神田の返事を待たずに店員を呼び、ウインドウの中に納められている

 

クロスのネックレスを出してもらった。

 

そして、神田の胸元にネックレスをかざし、「ホラ、似合うさ」と神田に微笑んだ。

 

「そ・・・そうか?」

 

照れ臭そうにする神田を見て、何度も首を立てに降りながら

 

「似合う!似合う!」と嬉しそうにしているラビ。

 

「すみません。これ2つください」

 

店員は箱に入れるか聞いてきたが、ここで付けていくから入らないとラビは答えた。

 

支払いを済ませ商品を受け取ると、ラビはニッコリ微笑み

 

「店出ると階段があるからそこに行こ」と言って神田を促す様に店内を出た。

 

ラビの言う通り、店内を出て少し行くと非常用の階段があった。

 

ふたりは人の邪魔にならないように端に寄り、階段に腰かけた。

 

ラビはてのひらに握りしめていた二つのネックレスを広げる。

 

「付けてあげるさ」そう言って神田の背後にまわり、ネックレスを神田の前にかざす。

 

「髪、少し上げてて」

 

ラビの言うとおりに神田は後ろ髪をかき上げた。

 

現われた白いうなじにラビはドキっとした。透き通るような白く細いうなじは男性とは思えない程、美しかった。

 

(やっべ~手震えるさ・・・なんて綺麗なんだろ・・・ユウ・・・)

 

ネックレスを留め、しばらくその透き通るうなじに見とれてしまった。

 

そして無意識にそのうなじに触れようと手をのばした。

 

「おいっ まだか?」

 

神田の言葉にビクっとし、慌てて手を引っ込める。

 

「あ・・・ゴメン、ちゃんと付いたさ」

 

ラビは神田の前に戻り、「コレはユウが付けてくれる?」と聞いてきた。

 

「あぁ いいぜ」

 

神田はラビの背後に回り、素早くネックレスを止めてあげる。

 

「流石、お前は良く似合うな」

 

「ユウもよく似合ってるさ」

 

「何か変な感じだ」

 

「ユウ良く似合うから、これからは少しオシャレしなよ」

 

「あ“ぁ?オシャレなんて興味ねぇよ」

 

「あはは・・・ユウはそのままでも綺麗だからいいんだけどね」

 

「綺麗ってなんだよ・・・」

 

「いいの いいの」

 

 

 

おそろいの携帯電話におそろいのネックレス。

 

どうしてこんなに胸が躍るのか、ラビは自分の気持ちに困惑した。

 

 

 

神田はどう思っているのだろうか・・・・

 

 

 

「なぁ 喉渇かないか?」

 

神田はお茶でもしようと言い出した。

 

この駅ビルの地下にファーストフード店があるので、そこでいいかとラビに聞かれ神田は首を立てに降った。

 

 

 

 >>【3】へ続く